早朝、外に出ると、黄色い車ーパパゲーノ・ノートに落ち葉が降り積もっていた。
屋根には大きな葉が、サイドのガラスには細い針葉樹のカラマツの葉がベッタリと張り付いている。
ほらね、この車はやはりパパゲーノ。
体中に鳥の羽根を纏ったパパゲーノそっくり。
明け方の空を見ると、明るい月。
それがゆっくりと明け始めて柔らかいバラ色の光に変わり、木々のシルエットの間から雲が光って見える。
あまりの美しさに寒さを忘れて落ち葉を踏みながら散歩を始めた。
帰ると姉が起きてきたので、もう一度外に誘って一緒に眺めた。
その日は追分にいるヴィオリストの友人Kさんが遊びに来て、浅間大滝を見に行った。
管理事務所で訊くと、先日の台風で滝の付近は立入禁止かもしれないと言われた。
たどり着くと、矢張り黄色い規制線が張ってあって滝は一部分しか見えない。
滝の手前の駐車場のそばの崖が山崩れを起こしていた。
無残に土肌が見えて細い木はなぎ倒され、根っこが露出している。
どれほどの凄まじさだったのか。
滝に降りる下りの山道は、川のように水が流れ落ちたことが想像される。
それでも体を乗り出して下を見ると、滝の一部が見えて、初めて見る姉は感激していた。
この滝は本当に素晴らしいのに、あまり観光客を見たこともない。
来ないのは静かでいいかもしれないけれど、こんな良い滝をアピールしない手はない。
のんびりした北軽井沢らしい。
その遅れた北軽井沢も、最近は新しいカフェなどが増えてきた。
新しくできるとなんとなくおしゃれなんだけど、とにかくこの地は寒いから人はあまり集まらない。
寒さも札幌などのように本当に寒いのはそれなりの魅力だけれど、中途半端な上に身を切るような寒さはどうもいただけない。
帰り道、おしゃれなパン屋さんに寄ったら、冬期は休業だそうでがっかり。
店が開いているかどうか確かめている間にも、ゾクゾクとした寒さ。
雪でも降ればもう少し楽しいのに。
午前中軽井沢から電気やさんがエアコン設置の下見に来た。
森の中は湿度が異常に高いから楽器には最悪。
吹き抜けとロフトが大部分を占めているので家全体の除湿には大きなエアコンが必要となる。
前の持ち主ノンちゃんの旦那様の画室が唯一密閉できる空間なので、そこにエアコンを取り付けて楽器を保管しようという目論見。
画室はかなり狭いけれど、ヴァイオリンの練習には差し障りはない。
軽井沢から来たその電気屋さんは、テキパキと点検して納得がいったらしく、今年はもうこの家を閉めるので、来年の春に設置をしてもらうことになった。
昼食が終わってKさんが帰ったあと、夕方の散歩。
もう少し早い時期ならカラ松がその細い葉っぱをサラサラと風に落としていくのだけれど、もう殆ど散ってしまったらしい。
夕日にカラ松の葉がチラチラと散る様は、いくら見ても見飽きない。
ノンちゃんが生きている間は、一緒に窓からその風景に眺め入ったものだった。
近所の家に明かりが灯って、どうやらこの辺の家々も冬支度のために来ているらしい。
森の冬はどんなに静かで素敵なのかと想像する。
冬は星が綺麗よと、ノンちゃんはいつも冬にご主人と一緒に来ていた。
いつか貴女もいらっしゃいと言われたけれど、一人ではあまりにも寂しすぎるかもしれない。
シンシンと音のない世界。
身を切るような寒さ。
あまりにも美しすぎる世界。
本当に魅力的なんだけど。
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