2015年10月28日水曜日

野菜の香り

食いしん坊は美味しい物を食べる手間を惜しまない。
それはグルメなんて言うものではなく、自宅で食べる料理の話し。
私は買い物をするのに、色々なお店に行く。
野菜は一駅先の自然食品の店で。
お肉とお米は車で40分ほど走る生協で。
豆腐は近くの個人商店。
魚は近くのデパ地下、というように。

決して美食家ではないけれど、せっかく食べるならなるべく美味しい方が良い。
今朝、野菜を買いに自然食品のお店に行った。
なぜこの店で買うようになったかというと、たまたまその店の隣が旅行代理店。
かつて、日本中を走り回って仕事をしていて、チケットの手配で旅行代理店に行った時、隣の店でニンジンを買ったのが始まり。
家に帰って包丁を入れると、プーンと懐かしい香り。
最近のニンジンは見た目はきれいでも、こんな強烈な匂いはしない。
そのニンジンは昔の匂いがした。

この匂いが嫌でたべない人もいると思う。
私が子供の頃、子だくさんの家の家計を助けるために、父が庭の一部を畑にして野菜を作っていた。
私はよく父の後を従いて歩いて、畑の手伝い(邪魔?)をしていた。
時々引き抜いたニンジンを水でちょっと漱いで「ほら」と言って渡されると、皮のままかじってみたり。
あまり美味しいとは思わなかったし、子供のことだからお決まりの野菜嫌い。
それでも取れたてのニンジンの鮮烈な香りは、とてもよく覚えている。
裏庭にはトマトや豆類。
竹藪にはタケノコ。
枇杷や桃、柚子、葡萄、無花果など果樹が沢山生えていて、果物は殆ど一年中自宅で採れた。
太陽の恵みをいっぱい受けた実は、感動するほど美味しかった。
そのどれもが独特の香りを放ち、味もとても濃かったように覚えている。
それが経済成長期と共に、きれいなばかりで味の薄い果物や野菜が店先に並び始めると、私は野菜も果物もあまり美味しいと思わなくなってしまった。

それから日本も落ち着いて昔の味が見直され、自然食品のお店も増えた。
それ以来私は野菜は産地か、自然食品の店で買う様になった。
他の店より少し値段は高いけれど、とにかく美味しい。
野菜もちゃんと作ると、こんなに美味しくなる。
卵も手に持ったとき重さが違う。

今朝買った大根。
立派な葉がついている。
スーパーなどで買うと葉は落とされてしまっているのでガッカリ。
葉がついているというだけでも嬉しい。
葉の付け根からサックリと包丁を入れて細かく刻んでいくと、まあ、なんと青臭い、大根の葉独特の匂い。
今日の大根は有機農業の教祖みたいな人の農場で採られた物だと、店長さんの得意げな講釈を聞かされ、よくぞ買って下さったと感謝された。

私は嗅覚障害があって、ある種の匂いは全く分からないのに、子供の頃嗅いだ臭いはとても良く分かる。
懐かしい香りを嗅いで、ごま油で炒め、酒と醤油を少したらし、しらすを入れて出来上り。
こんななんでもない手間いらずの料理が、素材の力で美味しく出来る。

今日はサンマ、瑞々しい大根は大根おろしにして、先日いただいたスダチを搾って、ああ、たまらない。
猫でなくてもウニャウニャ言いたくなる。

















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