2019年7月24日水曜日

ひとりぼっち

庭続きのお隣さんは歯医者の予約があって自宅に戻り、私が北軽井沢に来たときにはいなかった。
窓には鎧戸が降りていて車もない。
ご近所の永住している家も人気がない。
今年は都内もあまり暑くなかったから、まだこちらに来ない家族が多いようだ。
家の前に停まっている車も殆ど見当たらない。
梅雨が長引いているのに、わざわざこんな湿気の多いところに来ることもないと思うのかもしれない。

それでいつもよりずっと人影がない。
私は1昨日朝到着。
車をバックで入れていると、あれ?猫だ。
こんなところで飼い主にはぐれたのか、捨てられたのか。
そうすると私が飼うしかないか。
ヘッドライトの先に見えたのは親子と思える茶色い小動物。
あれ、猫ではないかも。
たぬき?ハクビシン?
この森では飼い猫は生き延びられない。
その後猫もどきは明け方のモヤの中に消えていった。

今年の住人の到着は例年よりも遅いようだ。
丸一日、友人以外のひとに遭遇していない。
夜になると全て闇の中。
家の玄関の常備灯の届く範囲の向こうは、真の闇。
潔いと思えるほどの真っ暗。
聞こえるのは雨の音、家電のブーンという唸り声。
森の木に守られて、母の胎内にいるような安堵感。

はじめは怖かった。
まだノンちゃんが元気だった頃、彼女は下の寝室で、私は屋根裏で寝ていた。
彼女が下にいるのがわかっていても、小動物がシャッターに当たってバーンと大きな音がすると、びっくりして飛び起きた。
しばらくドキドキして眠れなくなったけれど、今は一人でいてもさほど気にならない。
自宅にいるときのほうが、むしろ孤独感が大きい。

数少ない面白いと思えるTV番組が「ぽつんと一軒家」
とんでもない山奥にたった一人住む高齢女性などが幸せそうにしているのを見てふしぎに思っていた。
どうしてあんな孤独に耐えられるのかと。
でも今はよくわかる。
風の音、鳥の声、せせらぎの音、これ以上のご馳走はない。
決して自分と向き合うなどというような思索的な性格ではないけれど、時々こうやって1人でいるのも良い。

今日は食器類や寝具の買い出しに佐久平まで行った。
ある一角に大型のホームセンターや家具店が集中していて、ここに来ればなんでも揃いそうなので、まずはじめにホームセンターに入ってフライパンなどを買う。
次は家具屋で枕など。
つぎに入った店は食器などもおしゃれで、昨日買ってしまった物よりずっと良い。
ここでポップなケトルとスープ皿、グラタン皿、コーヒーメーカーなどを買う。
梱包に手間取りますので店の中をご覧になってお待ち下さいと、売り子さん。
これは陰謀だった。
見ていると次々に可愛いものが目につく。
結局コーヒーメーカーやトースターと同色系のワンピースを買ってしまった。
此の色、グレイッシュグリーンは今年の流行色のようなのだ。
先日ボルボのこの色の車を見かけたけれど、とても素敵だった。
でも此の色、ずーっと前から私の色だった。
去年、ついに家のドアをこの色に替えてしまったくらい。

同行してくれた友人のKさんはしっかり者。
彼女のお陰で散財は最小限に食い止められた。

夜、軽井沢在住のYさんと明日の遊びの予定を話し合っていたら、今日買いそこねたカーテンの話になった。
可愛い柄が見つかったのに寸法を測っていかなかったので買いそこねたと。
すると彼女は明日もう一度そこに行って買いましょうと言う。

カーテンの寸法お忘れなくと何回も念を押されて電話が切れた。
今日もう一つ買えなかったのはベッドカバー。
そのこともYさんのお陰で解決した。
彼女の家でカーテンの模様替えをしたときに古い方をクリーニングしたら、元が上等なのでそれは素敵なベッドカバーになったという。
それがまだ余っているのでお使いくださいと。
渡りに船とはこのこと。

言ってみるものだわね。
それで大体北軽井沢の住居が家らしくなる。
持つべきものはともだち。

帰宅したら、今朝は誰もいなかった森の中は、車が軒並み停まっていて子供の声や犬を連れて散歩する人たちが見られた。
やっとこの森も、楽しそうな家族で賑わう夏休みになったのだ。
いいなあ、家族連れで。
やっと孤独に馴れたのに子どもたちの笑い声を聞くと、ちょっぴりと寂しさがもどってきてしまった。



0 件のコメント:

コメントを投稿