2019年9月22日日曜日

ノーノー、テノールテノール

パスポートセンターは横浜中華街や県民ホールなどの近くにある。
それで思い出したこと。

この話はすでにこのブログで2回以上は書いているので、すでに読まれた方ごめんなさい
ほかにも色々、何回も同じこと書いているから「またか」と思ってスルーしてくだされば幸いです。

今横浜にはみなとみらいに立派なコンサートホールがあるけれど、その当時の最新の施設は横浜県民ホールだった。
近くには貿易センター、シルクセンター、山下公園など。
当時、東横線はみなとみらいや元町中華街などの駅はなくて、県民ホールに行くには終点の桜木町からバスかタクシー、貧乏な音楽家は徒歩で向かった。
徒歩でも横浜には趣があって、20分くらいかかるのも苦にならなかった。
横浜は建物の高さが制限されていたので、空が広い。
海が近いので空気もなんとなく涼やか。
特に良いコンサートを聴いた後は、桜木町までブラブラ歩いて感激の余韻を楽しんだ。

ある時ドレスデン歌劇場の引っ越し公演があった。
演しものはモーツァルトの「魔笛」
私が最も好きな演目だから高い入場料もなんのその、チケットを買ったらその後は毎日ご飯に納豆かけて食べればいいさ。
「ラ・ボエーム」みたいでしょう?

魔笛は最近では、奇妙な衣装や斬新過ぎる変わった背景など、演出家が大いに遊んでしまうことが多く、時にはなにもあんなことしなくてもと思うことも多い。
そのときはごくオーソドックスで、最初の大蛇が可愛らしすぎるほかは、ユーモラスでありながら「まとも」な魔笛だった。
大いに満足して会場を後にした。
会場の脇にバスが数台停まっていて、そこに早めに出番が終わったコーラスやスタッフと思われる人たちが乗り込んでいた。
その人達に手を振ると向こうからも振り返してきた。

バスに乗るか、何処かで一杯飲むか、歩こうか。
連れと相談しながら結局桜木町まで歩くことに。
そこからシルクセンターを過ぎて交差点の信号待ちをしていると、1人の外国人男性が走り寄ってきて「シルクセンター、シルクセンター」と喚く。
「シルクセンターは、あちらの方だけど」と指差すと「オペラオペラ」となおも喚くから、ハハーン、この人はオペラの出演者で、早く出番が終わったから街にでかけてバスに乗り遅れそうなんだわ」はたと気がついた。
「ああ、バスね?」というと「ノーノーテノールテノール」

一瞬キョトンとしたけれど、あまりにも必死なので「ホールは次の信号を右に行って・・・」と教えてあげたら、猛スピードで走り去っていった。

それにしても「テノール」って?
次の瞬間吹き出した。
なるほど、「バス?」と訊かれたので、彼はバス歌手と間違えられたと思った。
それで自分はテノール歌手であると説明したのだ。
しばらく笑いが止まらない。
この話はよく人に聞かせるのだけれど、みな爆笑する。

私はバスと言ったけれど、ドイツ語でバスはなんというのだろうか。
ベルリン・ドイツ・オペラの元パーカッショニストに「バスはドイツ語でなんと言うの?」と訊いたら「ブス」というのだそうだ。
よくもよくも私に向かってブスだなんて、ホントのこと言ってくれたわね。
と、これだけの話ですが。

当時ドレスデンは共産圏で、亡命する人もいたかもしれない。
そんな中でバスに乗り遅れたら亡命の意志ありとみなされて、国に帰ってからつらい思いをしたかもしれないと、ふと気の毒に思った。
彼が「ブス」に乗れて、その後も活躍できたことを祈る。















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