2019年9月15日日曜日

「秋の日のビオロンのため息」がほんとにため息になってしまったこと

秋の日のビオロンのためいきの
身にしみてひたぶるにうら悲し・・・
       
ポール・ベルレーヌ  上田敏訳

こういう詩を涙ながらに読んでいた頃の自分の瑞々しさ。
若い頃の感傷的な気分は、加齢とともにお肌と同じくドライになってしまった。
最近は物事に動じない。
若い娘なら「きゃあ、たいへん」なんて言うことでも「ふーん、だから?」
・・と思っていたけれど、今日は大いに動じてしまった。

代々木上原のムジカーザでブラームスのソナタ「雨の歌」の本番。
前日から衣装の準備、楽譜と眼鏡を忘れないように、それから靴も。
準備万端と思っていたら、昨日まで練習していた楽譜がない。
たしか昨日もここで練習していたのだから、この部屋からは出ていないはずの楽譜。

2日前のピアノ合わせのときに急に思い立って、楽譜を変えた。
譜めくりがうまくいかないので、以前使っていた版のコピー版に。
「雨の歌」の1,3楽章のヴァイオリンパートはほとんど休みがないので、譜めくりができない。
そのために譜面台を2台使って、3ページ分広げて、たった1小節、拍で言うと6拍でめくらなければならない。
以前使っていた版のほうは、譜めくりをしないで良いように4枚広げるようにコピーしてある。
その分、音符の大きさとスペースが狭いから多少混み合っているように見えるけれど、譜めくりの失敗のリスクはない。

それで昨日は、そのコピーの楽譜で練習。
どちらの楽譜でもいいけれど、何回も練習しているうちに指使いやボウイングも変えるから、それぞれ微妙に違う。
本番で迷わないようにと昨日は楽譜を入念にチェック。

今日のステージリハーサルは午後からなので、午前中もう一度弾いておこうと思ったら、昨日まであったコピー譜がない。
どっと冷や汗が出た。
どこを探してもない。
だって無いはずないじゃん。

諦めて3日前まで使っていた楽譜に戻して練習したけれど、もう胸はバクバク。
どうしてどうして。
昨日は変に長く眠ってしまった。
こういうときは体調不良か精神的に不安定なときなのだ。
数えたら9時間近い睡眠。

やっと用意ができて車を発進するときになって、もう一度確認。
キャリーバッグの中に納めたはずの楽譜が入っていなかった。
また冷や汗。
いつも心配で2度3度確認する癖が助けてくれた。
やはり今日はなんとなく不調なのだ。

車で都内を走っていると、そこかしこで秋祭り。
中原街道から環6通りに左折しようとしたらえらい渋滞。
信号が変わらないと思ったらお神輿や山車の通行のために信号が変わらないように操作している。
やっと通過したと思ったら、その後をのんびりと神主が通る。
なんだかことさらゆっくりと歩いているように見える。

リハーサルはなんとかやり過ごしたけれど、本番までが少し時間が空く。
遅い昼食を摂ろうと駅の近くにでかけた。
パスタのお店でナポリタンを食べたら、昔懐かしいケチャップ味で、思わず全部平らげた。
自分でもわかっていたのに、たくさん食べてはいけないことを。

楽屋に戻るとソファに腰掛けているうちにうつらうつら。
目が覚めて着替えを始めると、昨日着たときにはなんの問題もなかったドレスが窮屈になっていた。
私は腎臓に問題があるから、こういうときは良くない傾向なのだ。
やはり妙に沢山眠ってしまうときには、風邪の前兆とかなにか問題がある。
靴も昨日まではなんの違和感がなかったのに、非常に窮屈。
足が痛い!演奏が済むまで我慢できるだろうか。

なんでもうまくいかない日って時々ある。
私にしては真面目に練習したのに、なんだかいつでも初めて弾くようにドキドキするのがブラームスなのだ。
しかも消えた楽譜はどこへ?
どうしてこんなに体がむくんでいるのか。
途中で思い出した。

楽譜の謎はこうだった。

昨日楽譜を間違えてはいけないと思って、コピー譜をメガネと一緒に、それらを入れていくキャリーバッグのある居間の方へ持っていってテーブルに置いた。
今朝メガネを見つけて、あら、こんなところにどうしてと思って、メガネをレッスン室に持っていった。
その下に置いてあった楽譜に気がつかずに。
楽譜はあいにくコピー譜だったために、音符のある部分が表に出ていなくて他の書類だと思った。
原譜ならすぐに楽譜とわかるのに。
というわけ。

いつも忘れ物をしそうなときには、ここに置いたと自分に言い聞かせておくとたいてい思い出すのだけれど、今回はメガネを置いたことで安心してしまったこと。
メガネが目印になると思ったのに、逆にメガネを見つけたことで楽譜であることに気がつかなかった。
これが敗因。

ブラームスは本当に秋が似合う。
今日のブラームスはなんだかとりとめなく、不安定だった。
ベルレーヌさん、あなたは預言者?
今日の私の状態はまさしく「そこかしこにとび散らう落ち葉かな」でしたよ。











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