ブラームスはうまくいったのかどうか自分ではわからない。
今日は気持ちよく弾けたと満足したときは要注意!
録音を聞くとがっかりすることが多い。
今日はだめだったと落ち込んでいると、案外うまく録音されていたり。
もし他の人が褒めてくれたときには素直に感謝することにしている。
他人の耳は自分の思い込みよりも遥かに頼りになる。
自分で満足したときには疑ってみる。
ブラームスの壁はなかなか超えられないので、北軽井沢まで猫と出かけた。
猫はすっかり車にも馴れ、ケージに入れられる時のパニックもなくなってきた。
山道でカーブが続くと、ときおりニャアと鳴く。
家に入ってももうすっかりくつろいで、私のベッドのど真ん中を占領する。
お隣さんが来ているかと思ったけれど、車がないしシャッターが全て閉まっている。
森の中は人っ子一人いない。
夏は家の前に停まっている車も今は殆ど見当たらない。
ご近所の常住している家にも車が停まっていない。
おやおや、本当に誰もいないのだ。
夏に来たときに大騒ぎで歓迎してくれた蝉しぐれ。
それも消えてしまった。
聞こえるのは庭の下を流れるせせらぎの音ばかり。
軽井沢に住んでいるY子さんに連絡して、翌日、軽井沢のエロイーズカフェで朝食をとる約束をしてばんやりと森を眺めていた。
夏の暑さに痛めつけられた木々が少し枯れ初めて、紅葉の準備に入っているようだ。
今回来たのは、ノンちゃんの思い出のため。
去年の今頃、この家を私に明け渡す決心をして気落ちしたのかもしれない。
ここを出たノンちゃんは東京の自宅に帰って、次の日、亡くなってしまった。
別れるときに「ノンちゃん、来年からは私がノンちゃんをゲストとしておもてなししますから」と言うと寂しそうに笑っていた。
その約束が実現できなかったのが悔やまれる。
大好きな窓辺に座って森を眺めていると、私がそうしているのをいつも嬉しそうに見ていたノンちゃん。
ちょうど1年経った今、1人で森を眺めて時間を過ごした。
ノンちゃんはこの家を10年前に建てた。
その年の夏、仲間が集って庭でバーベキューをした。
その後中々バーベキューができなくて、私に「nekotamaさん、私、バーベキューがしたいの、あなたやってくれない?」と何かにつけて言っていた。
でもその頃の私は仕事人間で、いつも大忙し。
この家に来るのも1泊か2泊。
ノンちゃんが「もう帰っちゃうの?」と言うけれど「すぐまた来ます」と言ってはそのまま冬になってしまったり。
春になると、でかけてもすぐにバタバタと帰って・・・の繰り返しだった。
考えてみればノンちゃんと長く語り合うことも、やっと最近になってからだった。
ようやく仕事が少なくなり私も多少長めに滞在できるようになって、これからバーベキューもやってあげられると思っていたのにさっさとノンちゃんは逝ってしまった。
去年の初夏の頃、いつもよりも強めにノンちゃんから「みんなでバーベキューをしたいの、やってね」と言われたから、今回こそはと思っていたのに。
痛恨の極み、それでもう手遅れかもしれないけれど、この秋に仲間が集ってバーベキューをする予定。
私が怠け者で悪かった。
まだ大丈夫と思っていたのにノンちゃんにとっては、焦眉のことだったのだ。
ノンちゃんはもういないからやっても無駄かもしれないけれど、約束は守りたい。
これは自分のためであってノンちゃんのためではないけれど、せめての罪滅ぼしに皆さんに来てもらうことにした。
家の中はほぼ片付いて、後は物置の中の整理が残っている。
物置を開けてバーベキューの道具をさがしたけれど見当たらない。
たしかノンちゃんは「バーベキューの道具は残してあるから」と言っていたのに。
そのかわりどっさりとガラクタ(ノンちゃんごめん)が出てきた。
年老いたノンちゃんの手に負えなくなったものは、全部ここに放り込んでしまったのかもしれない。
そう思うとまた、私がもう少し頻繁に来て手伝ってあげればよかったのにと悔いが残ることばかり。
いつもお客様気取りでノンちゃんのおもてなしを受けて、この馬鹿者が!と自分を叱りつける。
人との交わりは、終わってから悔いが残る。
大切な人であればあるほど、ああもこうもと後悔ばかり。
でも仕方がない。
だれとでもパーフェクトというわけにはいかない。
バーベキューが実現したら、ノンちゃん、貴女の好きだった人たちでここを使わせていただきます。
仲間がいつでも泊まりに来られるように。
翌日目が覚めると頭痛がする。
首と肩が張っている。
ブラームスの後遺症?
起きてもなにもする気にならない上に、胃のあたりがムカつく。
エロイーズカフェの濃厚な朝食はとてつもなく魅力だけれど、今日はやめておいたほうが良いかもしれない。
Y子さんに連絡して家でゴロゴロすることにした。
彼女の言うことには「もしかして高山病では?」
あ、それ、思い当たることが。
夏の北軽井沢ミュージックホールフェスティヴァルのときも、到着したその翌朝不調だった。
そのことを言うと、仲間のKさんにも同じことを言われた。
Kさんは追分に猫と暮らすヴィオリスト。
彼女も追分に来ると、いつも次の日頭が痛いとかなんとか。
軽い高山病の一種かもしれないと。
誰もいない森の中でただ1人、木々と向き合いノンちゃんを思って静かに過ごし山を降りた。
たった2日間、ノンちゃんの「もう帰っちゃうの?」という声が聞こえそうな。
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