2019年9月28日土曜日

生徒に誘われて

山本リンダが甘ったるい声で歌った歌。
♫こまっちゃうナ、デートに誘われて♫
ご存知の方はいらっしゃいますかな?

その歌が流行った頃、私はまだオーケストラでヴァイオリンを弾いていた。
団の副代表が長い独身の末、やっと結婚。
彼は随分遅い結婚だった。
駅前で俺を待っている女がたくさんいるんだと、いつも豪語していた。
なんのことはない、飲み代のツケを払わせようと飲み屋のお姉さんたちが待ち構えていただけなのだ。

やっと結婚したら女の子が生まれた。
年齢から言うと孫に近い、可愛い賢い子だった。
女房なんて少しも可愛くない。
でも子供のためには必要なんだ。
あんな女、電車に轢かれて死んじまえば良い。
それもゆっくりとギリギリ轢かれたらいいのだ、などど恐ろしく物騒なことを言うけれど、それが彼独特の愛情表現だと誰もがわかっていた。

「こまっちゃうナ、デートに誘われて」って歌があるだろ?
うちの子は「こまっちゃうナ、生徒に誘われて」って歌うんだよ。
口の端が閉まらない。
いつもはそれこそ夕日に鬼瓦の顔が、緩みっぱなしになった。
それはそれで不気味だったけれど、可愛らしいとも思えるのだ。
照れ屋で不器用で全くの昔男のTさん。
私達はのべつ彼の家に押しかけ、奥様の手料理を食べ、時には泊まり込むこともあった。
いつも人のたくさんいる温かい家だった。
奥様が電車に轢かれちまったら、この料理を作る人もいなくなる。
美味しいお酒が飲めなくなるじゃない?

さて古典の定期演奏会が終わって、非常に不本意な出来栄えながらヴィヴァルディの協奏曲も完了。
いつものことながら落ち込みは激しい。
なんだってあんな意気地なしだったのかと、平静になるにつれて悔しい思いがこみ上げる。
けれど、又性懲りもなくなにか始めるのがガクタイの性なのだ。

次は、夏の北軽井沢ミュージックホールフェスティヴァルと同じプログラムでのコンサートが、10月半ばに。
11月の連休は奥州市でのチェロフェスタ、チェロの舘野英司さんが指導する地元の方々や新潟などからの出演者多数。
沢山のチェロ弾きのゴーシュが集結する中で、シベリウスのピアノ・トリオとショスタコーヴィッチの2ヴァイオリンとピアノのための5つの小品を演奏予定。
ここで弾くのは、いつも元の教え子からの声掛け。
こまっちゃうナ、ではなく嬉しいお誘い。

今年の〆は熱海での「クロイツェル・ソナタ」
12月1日、熱海起雲閣のホールで村上和子さんピアノリサイタルに客演、今年は暮れる。
とまあ盛り沢山なので、果たして体力気力がついてきてくれるかどうか心配ではある。

私は今まで自分の集中力を信じてきたけれど、昨日のステージでは体の衰えが感じられて、楽譜もよく見えない。
弾き終わった時によろけたそうだけれど、自覚はない。
ま、こういう年もあるさと自分に言い聞かせ、巻き返しを図るために次なるステップに・・・と言いたいところだが、もう疲れてヨレヨレ。
ステージで大勢のお客様の前で演奏するのは、想像以上のハードさ。
そろそろ引き際かな?
オペラシティのリサイタルホールでのコンサートで引退と思っていながら、それから15年、常に周囲の人に助けられて活動できたので、大変満足してはいるのだけれど。

気分を変えて今日は相模湖の美術館まで出かける。
同行するのは元の教え子。
彼女の好きな作家の美術展があるそうで、これも♫こまっちゃうナ♫ではなく、嬉しいな生徒に誘われて。
土曜日の昼過ぎ、ゆっくりとでかけてご飯でも食べて。
最近、若い人達がよく遊んでくれる。
しかも皆、なんとなく保護者のような顔つきで私をいたわるのが、少しばかり癪なんだけど。










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