ヴィオラ奏者のタメスティは1979年生まれ。
ユーリ・バシュメットの次世代ソリストで、トッパンホールの響きに良く似合うと思って聴きに行った。
トッパンホールは、私がとてもお世話になったチェリストの塚原翠さんが設計の段階から関わっていて、開館する前から会場を見せてもらったりコンサートが始まるとご招待頂いたりしていたので親近感を覚えるのと、会場内の作りや響きが抜群なので特に好きなホールなのだ。
ピアノはマルクス・ハドゥラ。
シューベルト 「アルペジオーネソナタ」
シューマン 「おとぎの絵本」
ドビュッシー 「亜麻色の髪の乙女」
武満徹 「鳥が道に降りてきた」
ヒンデミット 「ヴィオラソナタ」
ヴィオラ好きにはたまらないプログラムで、今日もピアニストのSさん姉妹と一緒。
アルペジオーネソナタの始まりはピアノから。
これが鳥肌ものの弱音から始まった。
繊細で決して出しゃばらず、それでいて大きな存在感のある素晴らしいピアニストだった。
始めのうちは例によって弦楽器は響かない。
コンサート直前の会場練習はお客さんが入っていないので残響が沢山あるけれど、本番になって人が入ると響きは少なくなる。
ピアノの場合楽器自体が響くのでさほど差はないと思うが、弦楽器の場合会場の助けを借りないと音が伸びない。
それで会場の残響が変わるだけで、始めのうちは四苦八苦する。
今日も最弱音で出たヴィオラは耳をそばだてないと聞こえないくらいだった。
どうしてもヴァシュメットと比べてしまうので不利だとは思うが、彼の音色はヴァシュメットのように甘くは無い。
まるで新しいヴァイオリンを弾いているようだと思っていたが、ストラディバリウスだそうだ。
休憩後はさすがに良く鳴ってきて、聴衆も熱狂的に拍手をおくっていた。
音色は好き好きだが、音楽性としてはバシュメットに匹敵するのではないかと思われる。独特のリズム感。
シューベルトの前奏部分のピアノが鳴りはじめるやいなや、弾いていない彼も内心で歌っているのがよくわかった。
ヴィオラを構えると、ピアノと渾然一体となって溶け合って作り出す音楽の艶やさ!
ヴィオラはいいなあ。
私はずっとヴィオラ弾きになりたくて、一時期ヴィオラでの仕事の方が多かった。
ある年、本邦初演を頼まれて引き受けた新曲がめっぽう難しく、来る日も来る日も猛練習して腰を痛めてしまった。
人一倍小柄な私が大きな楽器を弾くのだから猛烈に体に負担がかかって、その時点でヴィオラ奏者になるのは諦めたという経緯がある。
それでも去年・一昨年とロンドンアンサンブルと共演させてもらって、時々はヴィオラを弾く事を楽しんでいる。
ヴィオラの音は独特の深みがあって、弾いても聴いても気持ちが良い。
ヒンデミットのソナタを聴いていたら弾きたくなったので、楽譜を取り寄せてみようと思った。
終演後はそば屋で日本酒という「通」のSさん姉妹と、私はノンアルコールビールを飲みながら愉しく夕飯を食べて帰宅した。
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