生徒が発表会で弾いたグラズノフ「ヴァイオリン協奏曲」
聞いている内に、私がこの曲を学内試験で弾いた時のことを思い出した。
たしか大学3年生の時のこと。
なぜこの曲を選んだのかは良く覚えていない。
たぶん先生の選択だったと思うけれど、当時の私はまだ、こんな濃い曲を弾く迄にはなっていなかったのだと思う。
心が成熟していなかったし、技術も未熟だったしで、冒頭の部分をどう表現して良いのかが分からない。
当時使っていた楽器はフレンチのミルモン。
音は非常に出しやすくて良い楽器ではあったけれど、やや音色の幅がない。
イタリアンに比べると物足りない。
とても品のある良い音色だが、強さや鋭さが欠けていた。
しかも演奏する側が未熟で、いわゆる綺麗な音しか出せない。
音は綺麗だけど・・・・うーん、と言われるのが常。
ロシアの極寒の大地が生み出した暗い情熱など、持ち合わせていなかった。
冒頭の弾き方がどうしてもわからない。
悩んだ末に先生に「この部分はどのように弾いたらいいでしょうか」と訊ねたら「お嬢ちゃん、好きなようにお弾き」と答えが返ってきた。
唖然としたけれど、よし!それでは好き勝手に弾くさと思うがままに弾いた。
先生は当時まだ若くて、シゲティに師事したという新進気鋭のヴァイオリニスト。
後に東京芸大の教授になった方だったけれど、ちょっとお姉がかっていて、言葉も嫋やかだった。
ある日レッスン中、蜂が1匹飛び込んできて飛び回った。
どうやら私の音を、お仲間だと思ったらしい。
先生は怖がって、教室の片隅に固まっている。
そこで私は天窓近くに止まっていた蜂を追い払おうと、壁に沿って置いてあったテーブルに登り、スリッパを振り回す。
その間、先生は「やめなさい、お嬢ちゃん、刺されたらどうするの」と叫ぶ。
なんだかこの図は変だなあと思いながら、ようやく蜂を追いだしてテーブルから降りると「バカだねえ、この子は。危ないでしょう」と叱られた。
じゃあ、あんたが追い払えよ・・・とは言わなかったけれど、可笑しくて笑い転げた。
その先生の最大の長所は、やり方を押しつけなかったこと。
大抵の先生は事細かに、自分の奏法を押しつける。
そうされたら束縛を嫌う猫族の私は、きっとヴァイオリンが嫌いになっていたと思う。
事細かに言われると、我が強いので反発するか、スポイルされて自分で考える事をやめてしまったか、いずれにしても自分で考えることを余儀なくされて、今の自分があるように思える。
いわゆる優等生達は先生の言いつけをキッチリ守るから、試験の点数が高い。
私の場合、先生はなんにも教えないから、自分で四苦八苦。
学生ではまだ、自分で考えると言っても限界がある。
当然試験の成績はあまり良くない代わりに、自分で考え作っていくことをたっぷりやらされた。
そのことで、かなり先生を恨んだりもした。
しかしそのお陰で、学校を出た途端私は羽ばたいた。
自分でドンドン進んでいけるから、新しい曲にもわけなく入っていける。
というわけで、今はその先生にすごく感謝している。
学生時代は、なにを訊いても「好きなようにお弾き」だったけれど、その先生のCDを最近聴いたら、なんとまあ、私の原点ここにありというほど、私の弾きたいような演奏だった。
これはビックリ。
口で言わないで、ちゃんと演奏で教えて下さっていたのだ。
なんか凄くわかるなぁ。先生は生徒の資質をみて指導しているのでしょうね。
返信削除その後の生徒の可能性をかんがえて、あえて厳しくしていたのでは。
いい先生に出会えるのも、その人が持っているもののおかげですよ。
その先生に乾杯!
nyarcilさんはずいぶん好意的に見てくださるけど、その頃はパニックでしたよ。
返信削除おおらかで良い先生でしたが、お坊ちゃまでお育ちが良すぎて、レッスンでは毎回笑い転げていました。
「やだね、この子は、なにがおかしいの?」と不思議そうに訊くので、又それがおかしくて。
結局私はずっと笑ってばかりですね。