2014年10月28日火曜日

唐松の落葉

ノンちゃんの家はお隣の、Hさん、Oさんの家と庭続き。
食事はOさんのプロ顔負けの腕前で、毎回美味しすぎるので、こんな生活を続けてはいけないと思いつつ、食べやめられない。
朝食を清里のHさん山荘で目一杯食べたので、昼ご飯は雑炊と漬け物の簡素な食事と思ったが、その雑炊はダシの利いた茸いっぱいのすごく美味しいもので、一食たりとも適当にごまかすことのない作り方。

昼食の後はノンちゃんとストーブに火をおこす作業に取り組んだ。
新聞紙を丸めてその上に細い木を載せて、火を付ける。
細木が燃え始めたところで太い木を乗せる。
上手く空気が通らないとすぐ消えてしまうけれど、燃えはじめてからぱちぱちと火の爆ぜる音がし出すと、今まで寒かった部屋が徐々に暖まっていく。

この山荘の大きな窓には、外の雑木林が見えるように長椅子がしつらえてある。
頭だけクッションに載せ、横になって落ち葉の降りしきる景色をしばらく眺めていた。
ここの景色は清里よりも色調が地味で、赤い色は少なく全体が黄色く色付いている。

葉がハラハラ散る中で、唐松の針の様な葉が一斉に落ちていくのが美しい。
夕日を浴びて輝いて見える。
いつまでも見飽きない景色に、散歩に出て林の中を歩きたい気持ちと、燃える暖炉の火を見ていたい気持ちがせめぎ合って決めかねていると、昼寝から醒めたノンちゃんが「行っておいで」と言うから散歩に出た。
足元は落ち葉がびっしりと重なって、フカフカ踏み心地が良い。

それで思い出したのは、昔見たフランス映画「ヘッドライト」
たぶんジャン・ギャバンとフランソワーズ・アルヌールだったと思うけれど、妻子あるトラックの運転手と宿屋の女中の道ならぬ恋。
彼女が妊娠、出産で命を落とす。
運転手は家族からも冷たい目で見られて、なんとも救いようのない結末におわったような。
記憶が定かではないけれど、言いようのないやるせない映画だった。
その冒頭の映像が、パリの石畳に積もったプラタナスの落ち葉が風に吹かれて舞っている様子だった。

そんなことを思い出しながら散歩を終えると、夜は鯉の餡掛けがメインのご馳走。
ロマンチックはさておいて、食欲はなによりも優先する。
お酒は焼酎のお湯割り。
いつもはワインが多いけれど、料理によってお酒は日本酒だったり、焼酎だったり。
それも全国の美味しい物が、知人達から送られてくるという。

キャリアを積んでバリバリ仕事をした女性達が、リタイア後、こうして集まって暮らし、趣味に没頭し優雅に暮らす。
これは本当に理想的な人生だと思うけれど、これほどの女傑達でなければ実現は難しい。
食事をしながらの話題も多岐に亘って面白く、本当に頭の良い度胸のある女性達ってなんて素敵なのかと、毎度思っている。

夕日に落ち葉が舞って、中でも唐松の葉はキラキラして輝いている。
暮れてゆく景色は、言いようがないほどの美しさ。
日がとっぷり暮れると、辺りは漆黒の闇。
庭を隔てたノンちゃんの家まで帰るのも、怖いくらい静かで暗い。

ノンちゃんの家のリビングには柱時計がチクタクと音を立てる。
そしてボーンと大きな音で、時間を知らせる。
いつもは私が行くと、ノンちゃんはその音を止めてくれる。
ところが今回、先に寝てしまったノンちゃんが音を止め忘れた。
ノンちゃんは少し耳が遠い。
私もこの位の音なら目が醒めないと思ったけれど、物音一つしない林の中で、その音は意外と大きく、時報ごとに目が醒めてしまった。
12時、1時、2時、3時、4時、5時・・・毎時起こされて、それでも寝不足の感じはない。

怒濤のような3日間とこの静寂の、なんという対比。
メリハリのある数日間は、感動の音楽と美しい自然との対話、素敵な人との出会いで私の生活のハイライトとなる。


【映画「ヘッドライト」で検索したら、フランソワーズ・アルヌール演じる女主人公は、ジャンギャバン演じるトラック運転手に心配をかけまいとして、妊娠を隠して堕胎して命を落としたそうです。
ヴァイオリンの奏でるもの悲しい主題歌が印象的です。】


















3 件のコメント:

  1. おお、山の紅葉も林や森も景色も想像できそうなくらい、色彩豊かな文章ですねえ。
    美味しいもの食べて、いい音楽聞いて、柱時計の音も風情あるし、暖炉の火をおこすのもいいなあ。 会社で「今期の目標設定」で一日終わると、なんか、つまらない。 あー、羨ましい!

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  2. それにしても、「ヘッドライト」なんて渋いですねえ。 

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  3. コメント見っけ。
    時間差攻撃だったのですね。
    私はせっかちで何でも待てないのが、諸悪の根源です。
    ありがとうございました。
    ヘッドライトを見たのはいつご頃だったかしら。
    まだ、恋愛経験もない頃、それでも胸がキュンとなりました。

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