2020年4月10日金曜日

うふふ

時々お目にかかるピアニストから、シューベルトのファンタジアを合わせないかとのメール。
二つ返事で承諾したものの、ファンタジアは難しかったような。
「ような」というのも、この曲は今を去る半世紀ほど前に弾いたっきり、それっきり楽譜は日の目を見ていない。
たった1回しか弾いてあげなかったからとっくに楽譜は家出をしていると思っていたら、ちゃんと家の楽譜棚のシューベルトのところにありました。
偉い偉い、ずっと待っていたのね。

シューベルト作品159番。
パラパラとめくって見ると、ろくに練習したあとがない。
これはコンサートで弾いたのではなく、師事していた先生のおさらい会で弾いたきりのようだ。
この際コロナで外に出られないし、練習する時間はたっぷりある。
こういうときに久しぶりに曲を見直す良いチャンス。
ああ、こんなに素敵な曲だったかと、改めてシューベルト節に酔った。
ただし、いつ合わせられるかは決められないのが歯がゆい。

昨日まで愚痴っていたのに今日はもうニコニコ。
自分が本当にアンサンブルが好きなのだと改めて感じた次第。

しかしながら、人間同士だと私は少しもアンサンブルができない。
すぐに怒る、愚痴る、へそを曲げる。
楽器でならいくらでも他人の弾きたいことがわかるのに、言葉だと誤解をすることが多い。
言葉というのは本当に難しい。

私のこのブログを読んだ人が他の人に内容を説明しているのを聞いていたら、とんでもなく誤解しているようだった。
ほう、そんなふうに捉えていたのかと不思議に思ったけれど、訂正もしなかった。
だれでも自分の考えで相手の言葉を受け入れるのだから、曲解しても無理はないけれど、だからこそ、噂なんてものはどんどんそれが拡大していくのだなと思った。

ネット上で、噂が曲がり曲がってとんでもない事態を引き起こすこともある。
それを鵜呑みにして更に曲げて人に伝える。
恐ろしいことになる。
東名高速であおり運転した犯人がいて、連日テレビで放送していた。
それを撮影していた連れの女性が誤特定され、犯人は顔はぼかされていたものの名前が出た。
すると名字だけ同じで名前の違う人が風評被害にあって、連日脅迫電話が続いたという。
経営していた会社まで危機に陥ったそうなのだ。
これなどは本当にひどい。
ネット民は責任を持って真実をなんて言ったところで面白がってやるのだから、それが真実かどうかは当人たちにはどうでもいいのかもしれない。

そこへいくと、音楽は一人ひとり違っていい。
貴女はそう弾きたいのね、では私はこう行きましょうと楽器で遊ぶ。
何が真実かではなく、自分にとっての真実が許される。
お互いに自己を主張しつつ相手に寄り添い、丁々発止とせめぎあい、融合したときに新たな世界がひらけていく。

誰でも簡単な楽器でアンサンブルはできる。
ピアノを1本の指で弾いたって。
もう映画の題名も忘れたけれど、戦場の焼け跡に取り残されたピアノを弾く場面。
音が狂ってボロボロに傷ついて、そこに浮浪児のような子供が一人。
兵士が通りかかって子供をピアノの前に連れて行く。
兵士が単調なリズムを刻むと、子供は握りこぶしを鍵盤の上をくるくると回す。
これは逆だったかもしれない。
そして素敵なアンサンブルが生まれた。

この映画は何という題名でしたっけ?
そこの場面しか覚えていないけれど、タイロン・パワーがピアニストに扮していた事から、検索すれば出てくるかもしれない。
でもタイロン・パワーなんて名前、誰ももうわからないかもね。
私も今数十年ぶりに思い出した。
その事自体が奇跡だわ。

本当に音楽は人を繋げる。
言葉が通じなくても大丈夫。
数年前まで日本に毎年やってきたロンドンアンサンブル。
私も一緒に弾かせてもらったけれど、私は英話ができない。
けれど、弾いていれば全然違和感なく会話ができるのでとても楽しかった。
毎年の楽しみはアンサンブルの中心的な存在のピアニスト・松村美智子さんの逝去で終わってしまったけれど、英語が飛び交う中での練習でも全く問題なかった。
いつもチェリストのトーマスが演奏でフォローしてくれた。
リチャードが美智子さんと激論するけれど、いつも強いのは美智子さん。
皆でニヤニヤして喧嘩が収まるのを待っていた。
懐かしい顔が目に浮かぶ。
美智子さんは4月に逝った。
玉ねぎを取りに来てと言われたのに、私が取りに行かなかったのが悔やまれる。
「玉ねぎの芽が出たのがあるからそれを絵に描いたら?」というので「私は絵なんかかけないわよ」と返した。
それがちゃんと話ができた最後だった。
嘘でもいいから「ありがとう絵ができあがったら見せるわね」となんで言えなかったのか。

おやおや、又暗くなってしまった。
これからシューベルトの練習に取り掛かる。
そうすると嬉しくなる。
泣いたり笑ったり、私の心は忙しい。

































0 件のコメント:

コメントを投稿