2012年11月14日水曜日

虎馬

子供の頃は絵を描くのが好きで、よく描いていた。それが小学校6年生の時のある同級生のせいで、ぱったり描かなくなってしまったのには理由がある。夏休みの宿題のお絵かき、提出したのはうちにあったやかんの絵。子供にしては渋い色合いで、陰も細い筆で細かくつけて、ちょっと見には日本画のような質感。全体がモノトーンでまとめてある、そんな絵だった。まあ、子供らしくないと言えばそうなのだが、本人が子供らしいところの全くない子供だったから、どうしようもない。それが先生の目に留まって教室に張り出された。父兄参観の日、同級生の母親がそれを見て言ったそうだ。「あれは絶対に大人が描いた絵だから、きっとおかあさんが描いたのよ」と。その同級生が意地悪そうな顔をして「うちのお母さんがそういってたわよ」と言った。うちの親は6人兄弟の末っ子の私には無関心で、学校の成績がどうであれ健康で幸せそうにしていればいいと言う人たちだったから、夏休みの宿題をしてもしなくても構わないと言うおおらかさだった。だからお絵かきを手伝おうという気などさらさらない。できなければ出さなくていいよなどと平気で言うくらい。その時私はむっとして「絶対に手伝ってもらってない。全部自分で描いたのよ」と主張したらその子はねちねちとした口調で「いいのよ、手伝ってもらったって、かまわないのよ。」濡れ衣とはまさにこのこと。いまだにその子の顔と声を思い出してむっとする。何回も弁解をしてもその調子だったから、それ以来そのことがトラウマとなって絵を描くのはきらいになってしまった。やっと呪縛が解けて今回の展覧会の出品となった。やっと大人になったのか、それともそれ以前の子供の昔に帰ったのか、自分でもわからないけれど。

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