2012年11月15日木曜日

マーラー 交響曲5番

来年の出演依頼の曲の中にマーラーの5番があって、しばらくぶりにCDを聴いていたらふと蘇った記憶。そうだ、この曲は私がオーケストラを退団する最後のステージで弾いた曲だった。長い曲だから途中でトイレに行きたくなるといけないと言って、水絶ちをしたっけ。なんて色気のないことまで思い出した。しかし、聴いているうちにさらに思い出した。最後の拍手が消えて、さて、袖に戻ろうと後ろを振り返ったら、後ろのメンバーがみんな私のために泣いていた。私は団の運営に不満があって、それでやめると啖呵を切ったからサバサバした気持ちだったのに、若い人たちが泣いて惜しんでくれた。それを見たらどっとこみあげるものがあって、袖に引っ込んだら大きな花束を渡されて、女の子たちがワッと泣いたのには、こちらも参った。泣いてやめる気などさらさらなかったのに、悔しいかな泣いてしまった。それを思い出してしまったら、CDが鳴っている間中うるうるした。マーラーは最高。いつ聞いても胸が熱くなる。そして5番のアダージオは映画「ベニスに死す」で使われた。あの美しくも奇怪な映画は忘れられない。醜く化粧が剥げて老醜をさらした主人公が死ぬ場面が目の当たりに蘇る。しかし、それにしても長い。アダージオ以外は途中から聴いたら何楽章だか・・・判る人にはわかるけど、私は自信がない。3楽章が3拍子だからわかるとしても、こう言ったらマーラーフリークに叱られる。指揮者の故朝比奈隆氏はマーラーが大好きで、練習の時に練習番号Gからと言うときには必ず「グスタフのGから」とおっしゃった。もちろんグスタフ・マーラーの名前の頭文字。練習の前は約一時間様々なお話をしてからやっと音出し。その間じっと楽器を抱えて神妙に聴いていなければならない。早く弾きたいのにーと内心イラついたが、今思うともっとちゃんとお話を聞いておけばよかった。今ではもう遅いけれど。聞いているふりをしてひそかに指練習をしたり、ごめんなさい朝比奈先生。晩年は手がどうしても遅くなって、皆がそれに合わせて遅くなると「僕を見ないでよー。どんどん弾いて」とおっしゃったのを懐かしく思い出す。マーラーが愛されるのは、心の琴線を情け容赦なくかき回す、これでもかと言うほどの情熱、もう勘弁してほしいと思うほどの感情の嵐。そして天国のような静謐。ああ、うれしい。この曲が又弾ける。

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