2013年2月18日月曜日

モーツアルト・デイヴェルテイメント

モーツアルトの曲の中でも特に好きなのはK334とK563のデイヴェルテイメント。K334は弦楽5部とホルン2本の編成、K563は弦楽3重奏曲。甲乙つけがたいほどの名曲だが、私は特にK334が好きで、50分ほどかかるこの大曲を何回か弾かせてもらった。ファーストヴァイオリンはほとんど楽器を下ろす暇がないほど弾き詰めで、体力、気力とも大変なエネルギーを必要とする。それとショーソンのヴァイオリンとピアノ、弦楽四重奏のための協奏曲、これも長大な難曲。その二つを並べてオペラシテイーのリサイタルホールで好き放題弾いたので、すっかり満足して、もういつやめてもいいと思ったのが今から9年前。それなのにまだヴァイオリンを手放せないでいる。今週土曜日、あるお宅での小さなコンサートに何を弾こうかと思ったときに、弦楽器はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの3人だから、ベートーヴェンのセレナーデか、このK563が候補にあがった。どちらもすばらしいけれど結局モーツアルトに決まった。この曲はかつてヴァイオリンの外山滋氏と弾いたことがある。ある日知り合いのチェリストから電話がかかってきた。今度外山さんとこの曲を弾くつもりでいたのに、ヴィオラ奏者が突然降りてしまったので、代わりにヴィオラを弾いてくれないかという依頼だった。それで本番はいつなの?と訊くと一週間後だと言う。冗談じゃない。ヴィオラは専門ではないし、外山さんの様な国際的な名人と弾くとなれば、よほどの覚悟がいる。たった1週間で練習が足りるとは思えない。何度も断わっているのに、電話の向こうでは困り果てたチェリストが無言で返事を待っている。うんと言うまでは電話を切らないつもりらしい。とうとう根負けして引き受けて、外山さんのお宅で練習を重ねた。外山さんはステータスが格段に下の私にも少しも偉ぶることなく楽しく練習は進んだ。陽気でタフで話好きの外山さんは、私がレッスンを受けさせていただきたいというと、レッスンではなく、楽器を持って遊びにいらっしゃいと言ってくださった。これがご縁となって、その後もベートーヴェンのトリオも数曲ご一緒させていただいた。その直後に外山さんは残念なことに病気になられて、今は明石でひっそりと暮らしておられる。優れたお弟子さんたちが「明石詣で」と称して時々訪れるそうだ。私も数年前「明石詣で」に行ってきた。最近出した限定版のCDを聴くと、あまりの上手さに感動を新たにした。残念なことに弦楽3重奏は入っていないが、あのときの練習の楽しかったことをいつも思い出す。その上K563はもう一人の恩人、鳩山寛氏にもつながる。鳩山さんは本当にアンサンブルがお好きで、よく私にファーストヴァイオリンを弾かせて、ご自分はセカンドやヴィオラの様な内声部を弾くことも多かった。鳩山さんの内声の上に乗ると、自分がものすごく上手くなったような気がしたものだった。内声部はこうして弾くものだと演奏を通じた教えていただいた。先日沖縄に私の友人たちが鳩山さんを訪問した折、彼女らに託して一冊の楽譜が私に届けられた。K563。署名と年号が入っている。この曲をご一緒したときに使った物だった。今回、この楽譜を使って弾くことにした。古びて黄ばんでいるけれど、私の大切な宝物。

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