2015年7月20日月曜日

教師はドキドキ

うちに熱心に通ってきている生徒が、今日は荒川区での発表会に出るというので聴きに行った。
私は音楽教室の生徒以外は、自宅の方はこの生徒が1人。
あとはたまに単発のレッスンに来る人が少し。

この人は以前は他の先生の所に通っていたらしい。
そしてアマチュアのオーケストラに入ってシンフォニーなどを弾いていたけれど、もっと上を目指そうとレッスンを受けに来た。
私よりは若いけれど、20代とは言えないお年頃の女性。

初めて音を聴かせてもらったら、ヴァイオリンって・・・金管楽器だったかしら?と一瞬とまどった。
金気の多い音がする。
それは弓を必要以上に弦にこすりつけるからで、最初の構える姿勢からして、敵討ちに臨む侍の様。

アゴでギュッと楽器を挟み、斜め前方に身体を倒し、上目遣いに楽譜を睨む・・・おお、こわ!
アゴは二重顎になって、せっかくのスリムな小顔が台無し。
左手は剥がそうとしても剥がれないくらいの力で、指板を押さえている。
そんなに叩くと指板に穴があくよと、何回も注意した。

楽器は鎖骨の上にストンと置いて、左手の親指と人差し指の三角になったところに載せて、鎖骨と左手のバランスで持てば良い。
木の枝が二股に分かれたところに、板を載せるような感じで。
その板は木がギュッと締め付けて来なければ楽に移動ができる。
それと同じで、左手の指はきつく締めるとポジション移動の時に滑らないから、締め付けない。
それで移動がスムーズに行く。
顎も楽。

今どきそんな教え方をする人も少ないと思うけれど、私が子供の頃習った先生方は、ずいぶん変な教え方をしていた。
親が無関心だったから、良い先生を探してくれるなどという事もなく、適当に近所の先生の所へ放り込まれた。
楽器は顎でしっかりと挟んで、両手を離していられないといけない、とか、左手は指板を強くしっかりと上から叩くように、とか、弓は強い音を出すときは強くこするようにとか。
とにかく力を入れるという風に教わった。

思えば日本のクラシック音楽の初期は、外国人の見様見真似。
右手が柔らかくて指が自由自在に動くのを見て、それは外側から指を動かしているのだと勘違いしても無理はなかった。
私たちも、それで、指弓なるものを教わった。
弓の元から返す時、指の準備を先にしてから返しなさい、と。
要するに弓を返す時に、雑音が出ないようにと言う。
でも、そのために音の返りが遅れたり、音の立ち上がりがぼやけたりしたものだった。

それが出来ないからと言って、私の所に泣きついてきた人も居た。
その人に、それは指でするのではなくて、手首、指全体が柔らかく脱力出来れば自然に出来るから、と言ったことがある。
右手の指が全部独立していれば、それぞれの指の動きが自然に役割を果たすように動く。
とにかく脱力さえできれば、どんな動きもできるのだから、まずは脱力を勧めた。
しかし、レッスンの最初の頃は脱力と言っても、信用してもらえない。
力を入れなければ、音は大きくならない。
音の大小は、こする力に比例するという意識から抜けられない。
圧力をかければかけるほど大きな音がすると思っている。
潰れて遠くに飛ばない音になってしまうのに。

それから何年目になるかしら、今日演奏する生徒が、やっと脱力の大切さを分かってくれたのは。
いかにムダな力を入れていたかを納得してくれたので、見違えるように音が良くなってきた。
それでも長年の習慣が抜けるのは、これから先、気が遠くなるような時間がかかると思う。
私自身もそうだった。
今でも緊張すると、力が抜けてくるのに時間がかかる。
アレクサンダー氏の提唱したテクニックがある。
その本の中で「何をしなければならないかではなく、なにをしなくて良いかを知る」という項目があって、それを見つけたときには目から鱗だった。

少し会場が遠いのでどうしようかと思ったけれど、夕方、結局出かけた先は、船堀タワーホール。
車で走ってみると、交通渋滞はなくてあっという間に会場に到着した。
生徒の演奏はというと、レッスンで仕上がったものとほぼ同じくらいのものは出し切ったと思う。
ただピアノ伴奏がつくと本人が脆弱だものだから、そちらに引っ張られてしまう。
曲はチャイコフスキー「瞑想曲」
伴奏が元気過ぎて、瞑想には中々入れそうもない。
こういう曲はピアノは少し重ためで弾いてくれればいいのに。
あんなに騒がしい瞑想曲になるはずではなかったと、少々恨めしい。
もう少し本人がしっかりしていれば、これほど引きずられないし、伴奏者もヴァイオリンがどう弾きたいのか分かってくれるのではないかと、そのへんを今後の反省点にしたい。

それから、ステージ上の立ち位置が、まるでなっていない。
ヴァイオリンの胴体の上板が客席を向かなくてはならないのに、反対に向いてしまったのも敗因の一つ。
これは譜面台をセットする時のミス。
そのミスを本人は緊張しているものだから、そのまま位置を直しもせずに弾き始めた。
もう何回も発表会に出ているから大丈夫と油断したのが、間違いのもとだった。
けっきょく客席にヴァイオリンの背中の方が向いてしまった。
たったこれだけのことでも、ヴァイオリンのようなステージの音響に激しく左右される楽器には命取り。

ステージのリハーサルに立ち会えば良かった。
こちらも反省させられることしきり。























4 件のコメント:

  1. nekotama様もいい先生ですが、生徒さん、熱心で意欲が高くて、教え甲斐のある生徒さんですねえ。 今度はnekotama流ステージ度胸を注入しないと!

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  2. 実は私は偉そうなこと言ってるけれど、ノミの心臓。
    からっきし、意気地無しです。
    普段は滅法威勢が良いのに、楽器を持つと途端に気弱に。
    nyarcilさん、これってなんとかなりませんかねえ。

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  3. nekotama様は、はじめはノミの心臓でドキドキでも、 開き直ると強いじゃないですか。
    でなきゃ、独奏でああいう演奏できませんよ。

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  4. あはは、居直り強盗のようなものですね。
    まな板の上の鯉になると「ええい!しゃんめえ(プロゴルファー青木功の口癖)」となるわけでして。

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