サントリーホールのコンサートの前に六本木一丁目付近のカフェでお茶を飲んだ。
大きなテーブルの端っこに座っていたら、私の向かいに車椅子の男性が座った。
相当体が不自由らしく、車椅子をテーブルにまっすぐに向けるのも大変そうなのだ。
始めは手伝おうと思ったけれど、非常にしっかりした人のように見えたから、黙ってみていた。
むやみに手を出すのも良くないと思ったので。
やっと車椅子が収まって、店のスタッフがケーキとコーヒーを運んできた。
すると添えられたあったスプーンを手に持とうとしている。
見ると指は全て曲がってしまい、両手とも握った状態だから指の中にスプーンを入れるのも悪戦苦闘している。
私がなおも見ていたら、こちらをちらっと見た。
そこで声をかけようと思ったけれど、そういうことを喜ばない人のように見えたので、なおも黙っていた。
彼はまず、スプーンをかろうじて口に咥えた。
口からぶら下がったスプーンを自分の握られた指の隙間から押し込む。
何回も手順を踏んでやっとスプーンは彼の握りこぶしの中に入った。
これも何回も練習したのだろう。
うまいものだと感心して思わず拍手をしたくなった。
その人もしてやったりという表情。
そして今度はケーキの上にあった紙のデコレーションを取り除こうとした。
しかし、紙は薄くて小さいのでこういう繊細なものは無理なようなので、やっと手助けすることにした。
向かい側から手を伸ばして取り除くと「ご協力ありがとうございます」と明るい声でお礼を言われた。
なにかお手伝いしますか?と訊いたけれど返事はない。
「そのケーキ私が食べて差し上げましょうか?」と言われると思ったらしい。
それからケーキを食べコーヒーをストローで飲んでいた。
温かいコーヒなので熱くないか心配したけれど、少しずつ用心して飲んでいるから大丈夫と見た。
体の不自由なひとを見たらすぐに手を出したくなるけれど、ご本人が喜ぶかどうかわからないから様子を見ることにしている。
この人は自分でなんでも工夫して解決する性格の人と見たから、最小限の手助けしかしなかった。
多分リューマチとかそのような病気で手の骨が曲がってしまったのだろうと思う。
以前駅の改札口で白い杖のひとを見たから、お手伝いしましょうか?と声をかけて病院まで誘導したことがあった。
その人はなんだか少し見えているようで薄笑いを浮かべられて、それでもありがとうと言いながらさっさと病院に入っていったので、余計なことをしたらしい。
私は最近髪の毛を薄い色にしたら、電車で席を譲られ、店のレジでは一緒にお金を数えてくれて、買い物をカートに入れてくれてと、周り中が親切にしてくれるのがいささかうざい。
保護されすぎて緊張感がなくなるのが怖いから、なるべく親切にしないでほしいと思う可愛げのない年寄りなのだ。
本当に手助けがほしいときには大声で助けを求めるので、そのときはぜひ助けてください。
先日ホームセンターで買い物をしたらレジのお姉さんが「これはベッドパッドですよ」とか言うから「そんなこと知っとるわい」と言おうかと思った。
知らないものを買うわけないでしょう。
実に優しげに言うけれど、表情は冷たい。
気持ち悪いこと甚だしい。
デパートでもベッドスプレッドを物色していたら「これはベッドの上にかけるものです」
なんでわかりきったこといちいち言うの?
私はまさしくベッドスプレッドを買いたいのでここにいるわけで。
虫の居所が悪いと文句言うけれど、最近は穏やかになってきたからハイハイ。
でもその売場ではもう買わない。
多分管理者たちは、高齢者には噛んで含めるようにものを言うように店員を教育するのだろうけれど、それが高齢者をだめにすることに気付いておられないようだ。
本当にできない人には全面的に手を貸してもらいたい。
しかし、大部分の人は自立できているから、助ける必要はない。
這ってでも階段の上り下りできなくなったら、そのときはおんぶしていただきたい。
サントリーホールに入ったらさっきの車椅子の人がいた。
体が不自由でも、こうして1人で音楽を楽しみに来ることのできる人なのだ。
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