2013年3月3日日曜日

館野 泉フェステイバル

左手の音楽祭  東京文化会館小ホール
館野泉さんは病気のために大事な右手の自由を奪われて、それ以来左手だけで演奏している。ピアニストにとって手は命。その半分の命が失われ、想像を絶する辛い思いをなさったと思う。今彼は見事に左手だけの演奏でよみがえった。まず音のすばらしさ。力強くて繊細で、ピアノをオーケストラの様に鳴らすかと思うと、純粋で混じりけのない美しいピアニシモが耳を洗ってくれるようだ。目をつぶって聴いていたら片方の手だけで弾いているとはとうてい思えない。曲が限られているので、新しく左手のために書いた曲をレパートリーにしなければならない。もう高年齢の上に、以前弾いていた曲は捨てて全く新しい曲をものにしていくのは並大抵の努力では出来ないことなのに、一曲弾き終わるといかにも嬉しそうに観客席を向いてニッコリなさる。きれいな銀髪に柔和なお顔がマッチして、演奏だけではないお人柄の魅力も人気の秘密かもしれない。共演者は館野氏の弟さんのチェリスト英司さん、息子さんのヴァイオリニストのヤンネさん他。嬉しかったのは私が音大生の頃、すでにN響のスタープレーヤーだったクラリネットの浜中浩一さん、トランペットの北村源三さんなど、懐かしい方たちがお元気で演奏なさっていたことだった。北村さんはスキーがお好きで、私も舞子高原スキー場でご一緒したことがあって、今日も終演後の楽屋でそのときの話しで盛り上がった。それから館野英司さんは古ーい知り合いでうん十年お目にかかっていなかったので、今日は顔をわかってもらえるかと心配だったが、目が合ったとたんに、あっという顔をされて、一気にタイムスリップして旧交を温めた。打ち上げにお邪魔して一緒にお酒を飲んでいると、もう歳月はすっかり若い頃へ逆戻り。いつも思うのは、年を重ねた人たちがなんと魅力的かということ。心の琴線にふれる音楽は、長年の熟成を重ねた演奏者たちからでないと伝わってこない。若さは輝きではあるが、イコール未熟でもある。今日のコンサートはそういう意味で、本当に楽しめたすてきな演奏会だった。

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