2013年3月1日金曜日

最近思うこと

先日からなにかと思い出す人がいる。チェリストのMさん。私がオーケストラに入ったばかりの頃、鳩山寛さんともよくアンサンブルをしていた人で、私はその頃から合奏仲間としてずっとお付き合いをしていた。彼は音大を出ていないけれど、すばらしいチェリストだった。音大を出ていないのでいわゆる楽壇には属さず、一匹オオカミ的な存在だったが、その技術は高く評価されていたし、横浜を拠点として数々のコンサートに出演し、自身の主宰するコンサートも数多かった。私は忙しいオーケストラの仕事の合間を縫って室内楽をするために、練習は早朝か深夜になることが多かった。Mさんは朝5時頃私の自宅に迎えに来てくれて、6時頃から江古田のギタリストの家で練習し、9時に終わると大久保のオーケストラの練習場まで送ってくれた。夜は9時頃演奏会が終わると、営業の終わった不動産会社の部屋を借りて夜中の12時頃まで練習、そんなことが何年も続いた。それだけでなく次々に演奏の機会を与えてくれて、ほとんどの室内楽のレパートリーはMさんとの演奏で得たものだった。地方に演奏しに行くときにはやはり自宅まで迎えに来てくれて出発するときに「靴は持った?楽譜は?忘れ物はない?」などとお父さんみたいに面倒をみてくれた。約25年以上のお付き合いだったのに、私はだんだん生意気になっていき、彼はだんだん年を取っていった。私はまだ上昇したいのに、彼は楽に演奏したがった。そんなことを斟酌しないで、もっともっといい音が出したいと思う私は練習の時に彼を責めた。ちょうど結成した弦楽四重奏団が10年を迎えた頃だった。4人の音が練れてきて、もう一息がんばればもう一段階音が良くなるのに。追い詰められた彼は「自分の居場所がなくなった」と言って去っていった。ある大雪の降った日に「死と乙女」を演奏したのが最後になって、弦楽四重奏は解散。その後は会うこともなかったが、この数日しきりに思い出す。どうしているかな。鳩山さんと同じく私の恩人である。会えたらお礼を言いたい。それとお詫びもしたい。

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