2015年4月18日土曜日

美人ハープ奏者

東京交響楽団団友の張谷恭子さんの訃報が届いた。

ハープ奏者は美人と相場が決っている中でも、とりわけ美しかった彼女は、お恭さんと呼ばれ親しまれていた。
すらりとした形の良い手足と美しい顔、なによりも性格の良さで、誰からも好かれる人だった。
服装のセンスも抜群で、決して派手ではないけれど、上品な面立ちとマッチした実に良い雰囲気を醸し出していた。
お酒が好きでよく一緒に飲み歩き、我が家に度々遊びにきてくれた。
いつもお酒の席には、お恭さんの笑顔があった。

私がオーケストラにいた頃は、演奏旅行もよく一緒に行った。
一緒に居て本当に疲れない、気配りの出来る人だった。
旅行中は不足するからと、果物などを用意してくれた。
指の力が強く、ミカンなどは一気にパカッと二つ割にする。
大きな夏みかんなどでも同じだった。
上手く割るコツがあるらしい。
私が剥くとミカンは果汁でべとべとになるのに、彼女が剥くと袋も破れないで、きれいに剥けるのが不思議だった。

飲んだり食べたりしている間、器用に手が動いて、なんとなく周りを片づけている。
それも周りには五月蠅くないように、自然に何気ない風に。
私のうちのテーブルの上も、よくそうやってかたづけてくれた。

仙台に演奏旅行に行った時に、一緒に駅前のホテルのツインルームに泊まった。
このホテルには大浴場があって、お風呂に行く時はフロントの前を通らないといけない。
室内の狭いバスよりも大きなお風呂に入りたいけれど、ホテルは室外では原則靴をはかなくてはいけない。
でも風呂上がりに靴を履くのは、とても嫌だからどうしようと言っていると彼女は「フロントに訊いてみるわね」と電話をかけ始めた。
「あの、お風呂に行きたいのですが、スリッパで行ってもいいですか?」「・・・」「いえ、スリッパです」「・・・」

電話を切った途端彼女は「きゃははは」
突然笑い出した。
ふだんクールで、笑うときも楽しそうであっても、あまり大声を出すと言うことはない人なのに、その時はベッドの上で転げ回って笑っている。
「ど、ど、どうしたの?」
私は驚く。

スリッパで行って良いかと訊いたら、フロントの女性が素っ頓狂な声で「は!スリップでございますか?」と言ったそうなのだ。
いくらなんでも、スリップでホテル内を歩き回れるほど、我々は破廉恥ではない。
「スリッパです」と答えるといかにもホッとしたように「ああ、それならよろしゅうございます」と言われたそうな。
ひとしきり一緒にお腹を抱えて笑った。

十年ほど前から、仲の良かった昔のオケ仲間と集まって飲むことが多くなった。
その席に彼女も参加していたのに、去年の集まりには出て来るのがつらいと言って断ってきた。
その時にはすでにガンが進行していたのだろう。
膵臓ガンだった。
少しも知らないから、風邪でもひいたかな?と思っていたけれど、残念なことに、それ以来会わずじまい。

お恭さん安らかにお眠りください。

帽子を買って嬉しいなんて浮かれていたら、衝撃の知らせが届いて、一瞬で谷底へ落とされた。

























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