紀尾井ホール
「春を運ぶコンサート」のタイトルで8年連続で行ってきたリサイタルの最終回。
今回はシューベルトの「ソナタ」19,20,21番。
作品D958-960まで。
伊藤さんのシューベルトはもう何回も聴いているけれど、彼女は本当にシューベルトがお好きなようだ。
見ても聴いても、すごく楽しげに弾く。
シューベルトか伊藤さんかと思われるほど、渾然一体となって、心地よい雰囲気を醸し出す。
熟成されたワインのような馥郁たる香り、子供の様に無垢でありながら、大人の女性の魔力も持ち合わせ、力強さもある。
とまあ、私は伊藤さんのファンです。
特にシューベルトが良い。
先日挑戦すると言ってベートーヴェンのソナタをお弾きになって、それも素晴らしかったけれど、やはりシューベルトを弾いているときの音楽に溶けきったような、自由さが見受けられなかった。
それだけ、ベートーヴェンは頑固一徹、そこへいくとシューベルトは方円の器に従うような、流れがある。
彼女の魅力が最大に発揮されるのは、やはりシューベルト。
私はシューベルトを聴くとたいていぐっすりと寝てしまうので、批評家はできないけれど、それだけ心地よい演奏だということを言っておこう。
今日は例によって最初の曲はぐっすり眠らせて頂いた。
途中で寝言を言いかけてハッとして目が醒めた。
2曲目からは起きて居られたので、伊藤ワールドを楽しんだ。
彼女の強みはやはり、曲の構成が隅々まで分かっていることだと思う。
まるで弦楽四重奏を聴いているようで、低音はチェロのように、高音は女性の声のように聞こえる。
ただ弾いているのではなく、どの部分をどう弾くか、それが立体的になって聞こえてくるので、長いシューベルトの曲を3曲聴いても、全く飽きることはない。
女性と男性のデュエットのようだなあと思って聴いていたら、一緒に聴いていた友人も全く同じことを言ったので驚いた。
まるでヴィオラのようだと思ったところもあった。
以前ポリーニのコンサートで、彼の多彩な音がピアノの範囲を超えていたのに驚いたことがあったけれど、伊藤さんの音も単にピアノを聴いているとは思えないほど変幻自在なのが、面白かった。
終演後友人のHさんと、四谷駅構内のイタリアンカフェで沈没。
まずビール、魚介のマリネ、モツァレラチーズ、トマト、ビーフステーキサンド、赤ワイン。
今月生まれの私の誕生日プレゼントを沢山いただいて、お祝いをしてもらって、ご機嫌で家に帰ってきた。
久しぶりで赤い顔して地下鉄に乗りました。
その地下鉄駅プラットフォームでのこと。
私が何かを出そうとしてバッグの口を開いた時、急にショックがあった。
目を上げると、そこにはイヤホーンのコードに私の傘をぶら下げて、唖然としている男性が立っている。
一瞬なんのことか分からず、ポカンとお互に顔を見あっていた。
なぜこの人は、私の傘をイヤホーンからぶら下げているのかし
ら?
たまたま私のバッグが開いた時に、傘の手の部分が飛び出したらしく、たまたま傍を通った男性のイヤホンコードに引っかかったというわけ。
この漫画チックな出来事が今日の締めくくり。
良い日でありました。
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