2015年5月3日日曜日

別荘

生徒がレッスンを受けに来た。
大きなトランクと膨らんだバッグに、ヴァイオリンを背負って、いかにも休日モード。
今日これから別荘に行くらしい。

こんな楽しい日に、なにも私にグチグチ言われに来なくてもいいのにと思う。
別荘を持たない身としては大層羨ましい。
ただ、私は極めつけの無精者で、もし別荘を持てたとしても荒れ放題にしてしまうと思うから、友人達の別荘を渡り歩かせてもらうほうが分相応。

いまや軽井沢に2軒、清里に1軒、泊めてもらえる家がある。
だからなにも苦労はしないで、別荘生活を満喫できるのだ。

もう20年程前乗馬に夢中だったとき、山を一つ買って木曽駒を飼おうという計画を立てた。
木曽駒は丈夫で賢い、足が強く山路を登っても疲れない。
側対歩という歩き方で、サラブレッドの様に揺れが大きくないので、乗りやすい。
それでなるべく近場で地価が安く、人の少ない場所を狙って、栃木県、群馬県、茨城県などを探し歩いた。
あるとき東北自動車道で仙台からの帰り道、あまりの渋滞に飽き飽きして常磐道に進路を変えた。
途中の一般道で、とても雰囲気の良い場所を見つけた。
こんな所に住みたいなあと思って、それから間もなくその辺を探索してみた。
そこは栃木県の馬頭町、名前も気に入った。

その前に東北の方も探していたけれど、やはり少し遠すぎるのと、人が良いと思っていた東北の人が狡猾で、かなり足元を見られたのがショックでやめてしまった。
休耕地で荒れ果てているような所の値段が高すぎたり、水が出やすかったり、良いと思うとお墓があったりで、これと言って適当な所が見付からない。
東北には親戚がいて、平、浪江などの辺りに住んでいた。
原発のそばに散歩に行ったこともある。
その後の大震災で、亡くなった人はいないけれど、今は分散してしまった。
あの辺で気に入った土地を見つけていたら、私と私の馬が被災したかもしれない。

馬頭町を何回も訪れて、かなり気に入った土地が見付かったのでそこに決めるつもりでいたけれど、姉やその家族と見に行ったとき、私と姉以外は皆乗り気でない。
緩やかな傾斜地で眼下に那珂川が見える、ロケーションは抜群だけれど、狭い山道を車でかなり上る。
それに傾斜地だと言うので反対された。
傾斜地はむしろ広く使えるし、面白い建物が出来ると思ったのに。
それでもう一回、今度は家族でなく友人にお願いして同行してもらった。
町に入って、不動産屋に電話をしても出ない。
約束してあったのに、何回もかけても出ない。

途中の山道で会った人に道を訊ねると、もう、呆れるばかりのスローリズムで、地図を見せてもボンヤリとしていて、今ここが地図上のどこであるかも分からないらしい。
私がその内切れると思った友人が後ろで「怒っちゃダメよ」と何回もささやく。
場所は大体分かっているから車を走らせてみても、同じような山路でどうしても到着しない。
その頃はカーナビも持っていなかったし。
それでしおしおと帰って来たけれど、次の日不動産屋に電話すると、子供の運動会だったので出かけていましたと言う。
そこでプッツンと何かが切れて、そこはご縁がなかったものと諦めた。
馬を飼う計画も頓挫して残念!

ところがその数年後新しい美術館が出来て、そこで我が「雪雀連」の絵本作家、田畑精一さんの絵本の原画展が開かれたので見に行くと・・・なんと、景色に見覚えが。
紛れもなくそこは私の土地(になるはずだった)ではないか。
こんな良いところだったのだと、歯ぎしりをした。

その後、私は仕事に追われ、考えてみれば馬を飼えるほどヒマではなく、結局これはこれで正解だったと思う。
もし馬を飼っていたら仕事は出来なかった。
うまくしたものだ。とダジャレで締めくくり。























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