2015年5月6日水曜日

巨匠ギトリス

イヴリー・ギトリス リサイタル
紀尾井ホール

御年軽く90才を越えてなお、矍鑠として演奏を続ける驚異的なヴァイオリニスト。
普通ヴァイオリニストの演奏寿命は長くはない。
まず聴力の問題、自分で音程と音色を作るのだから耳が悪くなったらそこでお終い。
姿勢の問題、しっかりと姿勢が保てなくなったら、音は出なくなる。
そして指の形が変わってしまうと音程が取り辛い上に、狭い弦の間隔が災いして場所が定まらなくなる。
0コンマ何ミリ単位の動きが要求される・・・例えば左手の指をちょっと立てるか寝かせるかで音程も音色も変わってしまう。
関節の柔らかさを特に要求される楽器だから、硬くなるとボウイングに影響は勿論、ビブラートがかけにくくなり音色が硬くなる等々。
それで皆段々演奏から遠ざかってしまう。

なにがギトリス氏を演奏長寿者としているかというと、そのたぐいまれな自由さ。
小鳥の様に自由で枠にはまらない。
たぶん心も本当に自由で、純真でとらわれないのだと思う。
それはメチャクチャという意味ではなく、決められた空間を伸び伸びと浮遊しているように見える(聞こえる)
心の自由さが体の柔らかさにもつながって・・たぶんこれは相互効果だと思うけれど・・今でも現役で世界を飛び回っている。

演奏スタイルはやはり今の人達から見れば旧い。
今、世界的な傾向は端正で正確なことが要求される。
きちんと纏められているから、誰が弾いてもアカデミックで特徴がない。
ギトリスはいわゆる巨匠スタイル、ハイフェッツ、ティボー、クライスラーなどに近い。
だからクライスラーの曲を弾くと、独特な得も言われない味わいがある。
極上のブランデーに最高級のチョコレートを同時に味わったような気がする。

ピアニストに腕を借りて、背中が曲がったコッペリウスみたいな頭髪で現れた彼は、お顔を見れば鋭く、口を開けばユーモアに溢れ、時々話しをしながら自宅の居間でくつろいで居るかのように淡々と弾く。
最高だったのは彼のビブラート。
左手の柔軟さが年齢によって少しも損なわれていないことに驚いた。
往年の音は失われているのかと思ったけれど、まだまだ。
随所に輝きと艶のある音色、そしてしみじみと心の奥まで入り込む歌い回し。
懐かしく美しきよき時代の名残を見せて、聴衆の心を奪った。

万雷の拍手が止まない。
誰もが席を立てずに涙した。

曲目は
モーツァルト「ソナタ」ホ短調
ブラームス「ソナタ」3番ニ短調
ピアニストのソロで
モーツァルト「幻想曲」ハ短調K.475
この後は小品をいくつか
お話をしながら気分に任せて弾いていく。
クライスラー「愛の悲しみ」「美しきロスマリン」「シンコペーション」
ベートーヴェン「ソナタ春」よりスケルツオ 
マスネー「瞑想曲」日本の「浜辺の歌」など。

最後にピアニストにも拍手!
素晴らしかった。














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