2015年8月17日月曜日

展示会のガラス

天才数学者アラン・チューリング伝を読んでいる。
字が小さい、ページ数が400ページ越えで、それが2巻まであるという長編。
2巻目は予約してあるけれど、まだ手元にない。
目の悪い私にはとても読み切れまい、又積ん読の仲間入りかと思っていたら、実に面白い。
筆者(アンドル-・ホッジス)の力もあるかもしれないけれど、チューリング自身がそれほど人間として面白かったのかと思う。

チューリングは第2次世界大戦中、ナチスドイツの暗号を解いてイギリスを戦勝国に導いた。
彼は天才数学者として暗号解きのスタッフのリーダーになる。
そのために、ある器械を作り上げた。
それが今のコンピュータの基礎となるものだった。
暗号は苦労の末解けたものの、解いたことをナチスに悟られると作戦を変えられる恐れがあるため、それをひた隠しにする。
すべての作戦を知っているけれど、全部の戦いに勝ってしまうと暗号を解いた事がばれてしまう。
敵だけでなく味方も欺かなくてはいけない。
それで、その内のいくつかはわざと攻撃を受けて、まだ暗号が解けていないと思わせなければならない。
当然味方が戦死する。暗号解きのスタッフの身内も。
その間のチューリングの苦悩。

その上彼はホモセクシャルで、当時はそれは罪に値したために罰を受け、薬での治療を強いられる。
天才的な頭脳の持ち主であっても、生き方は不器用で、他人との付き合いはうまくいかない。
その後、彼は自殺してしまう。

ニュートンやダーウィンにも比すべき英国の天才の名は、国家によって隠蔽されてしまった。
しかし、2011年、オバマ米国大統領によってその名前が明らかにされ、功績を賞賛されている。
そんな時代でなかったら、その後も生きて数々の業績を打ち立てたかも知れない。
科学の進歩にどれほど貢献したことか。

こんなエピソードが。
 アランがパブリックスクールの寮の監督生だったとき、下級生にビクター・ビュッテルと言う少年がいた。その少年の父親のアルフレッド・ビュッテルは照明の研究をして1927年「K光線照明システム」で特許をとる。
絵画やポスターに均一に照明を当てるのは難しいらしい。前面のガラスを湾曲させて、上につけた照明の光が反射して、均一に広がるように工夫する。問題はガラスの湾曲度を出す公式をどうやって見つけるか。
アランはその公式を直ちに導き出し、更にガラスの厚さによっては2次反射を起こす問題を指摘。
これに依ってガラスの湾曲度を変える必要があることを証明した。
数式が物理で実際に使えることはアランにとって大変喜ばしい事だった。

展示会などで何気なく見ている額縁のガラスにも、アランの数式が含まれていようとは想像もしなかった。

そういえば私は、画家さんから譲って貰った絵を、部屋に飾るために苦労したことを思いだした。
それは4号大の人の顔の絵。
どこに飾っても、ガラスに天井の蛍光灯が反射して、上手く見えない。
とうとうかなり壁の下の方に、直接蛍光灯の光が反射しないように掛けるしかなかった。
幸い私は小さいから、私の視線のすぐ下になるけれど、大柄な人ならかえって見にくいかもしれない。

ほんの些細なことでも難しいことがあるのだと思った。
科学を志す人、そうでない一般の人もすでにこんな知識はもっているかもしれないけれど、私の様な畑違いの仕事をやってきた者にとっては、なにもかも目新しく思え、感動する。

よく学校の勉強を馬鹿にする人がいる。
数学なんかやっても、実社会では何の役にも立たないとか。
役に「立たない」と「立てられない」は大きな違い。
「立てられない」人はほっとけばいい。「立てられる」人は人生がどれほど豊になることか。

すごく憧れるけれど、私も「立てられない」くち。
普段はマニュアルも読めないほどの、器械音痴。
まあネコだからと、いつも逃げ道は用意してあるのが、こす狡い。



















2 件のコメント:

  1. おおすごい!(って、毎回こればっか) nekotama様、科学に関心高いんですね。 やっぱり数学と楽譜の音符の並び方は、緻密で相通じるものがあるのかしらん。私はあの本を毎日昼休みに少しずつ読んでましたが、その時間だけ極めて知的なものに接している感じでした。 うん、やっぱり下巻も発注しなくっちゃ。
    ところで、私の夏休みは実家の用事と歯医者通いで終わった感じです。あーあ。

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  2. 科学に関心があると言うよりは、なにを聞いても私の知らないことばかりで、唯々驚いているだけです。久しぶりに面白い本に巡り会えたのは、nyarcilさまのお陰と感謝しております。私はベッドに持ち込んで寝る前に読むのですが、なにしろ寝付きの良さでは人後に落ちないので、ほんの数ページ読むと後は意識が無くなっていますね。

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