毎朝散歩の途中で立ち寄る場所は、小さな公園。
公園と言っても低めの滑り台が1台だけの、ほんとにせまい場所。
そこの前のお宅で飼っている子が、さんちゃん。
立派な茶トラの雄ネコ。
ほかにミルクティー色の雌ネコ、脚の先が白くてブーツを履いているような雄ネコ。
この3匹はとてもおとなしくて、人に馴れて居る。
その家は車道に面していて、3匹はその道に寝そべったり、知り合い、例えば私なんかが通ると愛嬌を振りまきに出て来る。
私が呼ぶと道を挟んだ公園まで出てきて、一緒にあそぶ。
さんちゃんは最近なんだか元気がない。
前は木に駆け上ったり、猫じゃらしを追いかけ回したり、とてもやんちゃな子だったのに。
身体も大きく毛艶もよく穏やかで誰にでも懐いて、近所の人達に愛されている。
少し元気がないのは、この暑さと年をとったせいで、涼しくなれば元気になるかもしれない。
今朝、さんちゃんのママが自転車の前でなにかしていた。
近づいて挨拶をして「ネコさん達は?」と訊くと、自転車の籠に乗っていたカプセルの様な物の蓋を開けた。
そこから首を出したのは、さんちゃん。
「今病院から帰ったところなの」
病院?病気だったのかしら。
さんちゃんママは「怪我をして菌がリンパに入って腫れ上がっているの」と言う。
激しい痛みがあるらしい。
「首のリンパの所にグリグリがあって、薬で抑えているけれど、一生治らないそうで痛み止めを使っている」と。
可哀相に、立派な体格だったさんちゃんがやせ細って、それでも私を見ると遊ぼうとしてカプセルからスルリと飛び降りてきた。
しばらく地面に横になって、ゴロゴロ寝返りをする。
この子は後ろ足が力強くて、両足を持つと、強いキックが出る。
その反動で身体がグイーンと、ロケットの発射みたいに進む。
今日もネコキックを何回かやってくれた。
さんちゃんママは相手がネコなのに、声をひそめて言う。
「もしかしたらガンの一種で、もう治らないかもしれないので、痛み止めを使っているの」
まだ14才、うちのたまさぶろうの5才も年下なのに。
毎日この子に会うのが楽しみだった。
呼ぶとトコトコついてくる。
この家に入ったのはさんちゃんが3番目、他のネコから拒否されながら、そのうち一番のリーダーとなったのは、その大らかな性格のせいらしい。
ミルクティー色の子は、中々馴れない。
私は常連さんだからもうお許しが出て、ナデナデさせてもらえるけれど、普段はとても警戒心が強いらしい。
もう一匹の雄はあまり人付き合いは良くないけれど、時々耳の後ろをなでさせてもらえる。
さんちゃんみたいな立派なネコさんが病魔に冒されて、だんだんやせ細っていくのは、見ていてつらい。
ただの夏ばてかと思っていたのに。
さんちゃんママの心痛の色を見て、うちのたまさぶろうの老衰で枯れ落ちていくような最後を思い出した。
動物を飼っていると、こうした病気や事故などに遭遇したペットが必ず出て来る。
それを見ているのは本当につらい。
人間だっていつかは病気になるけれど、苦痛を訴えることが出来る。
治療も選べて、今どき、かなり高い率で病気は治る。
痛いとも言えずじっと我慢する動物は、不憫。
病気でも何物も恨まず、蹲って声も立てない。
自然に逆らわず、運命を受け入れる。
でも、これが人間を含む動物の、真の姿。
私たち人は、なんでもやりすぎているかもしれない。
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