2015年11月10日火曜日

圧力の差

ここ数日「エニグマ」に専念して、ずっとヴィオラを弾いていた。
そろそろ奥州市で弾くモーツァルト「ディヴェルティメント17番」を弾き込んでおかねばと、ヴァイオリンに切り替えたら、なんだか立派な音になっていて軽さが出ない。

ヴァイオリンからヴィオラに移るのは簡単だけれど、ヴィオラからヴァイオリンに戻る時に、多少ぎくしゃくする。
それは弓の圧力の差とか、ヴィブラートの微妙な違いとか。
やはり、その楽器にとって一番良い音を出すためには、自然に自分で微調整している。
ヴァイオリンからヴィオラという時には、さほど感じなくても、ヴァイオリンに戻るとき、弓の重さが違うので調整は難しい。
弓が軽くなればなるほど、バランスが微妙になる。
ヴィオラを弾いた直後にヴァイオリンを弾くと、妙にしっかりとしたヴィオラっぽい音になっている。
弓の圧力だけでなく、ヴィブラートの幅や早さにも、原因があると思う。

左手もヴィオラの方が一音の幅が広いから、広げるのは簡単、でも、元に戻すのは窮屈。
以前私がヴィオラを弾くと言ったら、ベルリン放送交響楽団のコンサートマスターだったヘルムートが「ヴィオラ?ヴィオラ弾くのか?」と何度も聞き返してきた。
「そうよ、ヴィオラよ」
私みたいに小柄で、ヴィオラを弾くのは信じられないらしい。
もちろん楽器は胴体部分が40㎝以下のサイズで、私の左手は幅が広く四角いから、弦楽器を弾くのにはうってつけ。

ヘルムートは自慢げに「自分はこんなに手が大きい」と言って、ハイポジションを楽々とってみせる。
ファーストポジションの位置に親指を置いて、そのままハイポジションを弾いて見せたのには度肝を抜かれたけれど、手が小さければ移動すれば良いのだから、私はハイポジションでも苦労はしない。
むしろ最近指が曲がってきたので、音程が不安定になったことの方が、気になる。
ヴァイオリンでもヴィオラでも弓にかける圧力は、腕を完全に脱力した状態で弾くのが一番良く鳴るのだけれど、ヴィオラの場合、多少ヴァイオリンよりも弦が太い。
その分抵抗は増すので、ほんの僅かだけれど、圧力をかけないと鳴らない部分がある。

特に一番太いC線は私の小さい楽器では鳴りにくい。
鳴らないからと言って力を入れたら余計鳴らなくなるけれど、やはり自然に押しつけることが多くなってしまう。

ヴィオラのサイズは様々で39㎝くらいから45㎝なんていう巨大な物まである。
45㎝になったら、私はおそらく渦巻きの先まで手が届かないと思う。
以前、45㎝を持っている人がいたけれど、日本人にしてはかなり高身長なのに、その彼でさえ弾ききれなかったらしい。

そのサイズになったらチェロの様に前に構えて弾いた方が良いかも。

昔、ピアティゴルスキーというチェロの名手がいて、彼は冗談が多い人だった。
巨人のように身体が大きかったので、ある日、冗談にチェロを顎に挟んで撮った写真が新聞に載ってしまった。
次のコンサートで彼の楽屋を訪れたご婦人から「うちの息子がどうしてもチェロを顎に挟めないのですが」と相談されたという。

ピアティゴルスキーがチェロを顎に挟むのと、私がヴィオラをはさむのと、ほとんど相似形ではないかしら。
私の身に余る楽器だけれど、その魅力に抗しきれず時々ヴィオラを弾かせてもらう。
ふだん身長が低いのは一切気にならないけれど、ヴィオラを弾く時と馬に乗る時だけは、もう少し手足が長かったらなあと、ため息が出る。























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