2015年11月4日水曜日

アマチュアオケはウイーンフィル並?

先日アマチュアオーケストラの手伝いに行った。
私は当日のみの参加で、あらかじめ楽譜を送ってもらって譜読みだけして行った。
アマチュアオーケストラは、大抵年に一回定期演奏会をするために、1年掛けて練習をする。
だから譜読みはもう皆できている。
弾ける弾けないはともかくとして、なんとか辻褄を合わせてしまう。
アマチュアオーケストラもピンキリだから、えらく上手いところもあって侮れないけれど。

以前ベートーヴェンの「田園」を弾きに行ったら、ヴァイオリンとファゴットが完全にずれていて、収集がつかないはず・・・なのに、ある時点で急にぴったり合ったのでびっくりしたことがあった。
その技術に感心した。
これ皮肉でなく、あんな事が出来るのはどうしてなのか、考えてもよくわからない。
とにかく一緒に終った。

一年間練習しているのだから、指揮者がどう振ってもお構いなく自分たちのテンポで突き進むので、ハラハラしているうちに取り残されたり。
それはそれはスリルとサスペンスの世界。
なまじ指揮者の指示が目に入るといけないから、見ないようにして周りに合わせることにした。

世界的なオーケストラ、例えばウイーンフィルなどは、下手な指揮者が振っても(おそらくそんな人は来るわけがないけれど)自主的に自分たちで音楽を作り出す。
毎年恒例のニューイヤーコンサートなどは、たいていの指揮者はうるさく指揮せずに団員達に弾かせて、指揮台で踊っている。
デュトワとかマゼールが嬉しそうに指揮をしているのは、本当に素敵だった。

日本の小澤氏などは、あまりに小うるさく指揮をするので、ウイーンフィルの団員達はいつものウイーン節が出せず、不幸そうな顔をしていた。
演奏は立派だったかも知れないけれど、あんなつまらないニューイヤーコンサートを聴いたのは、初めてだった。
ウイーンの音楽はウイーンの人に任せておけばいいものを。

それでアマチュアオーケストラを弾いているとき、ふとそんなことを思い出していた。
彼らは棒を見なくても、自分たちで音楽の流れを作っているのだから、ウイーンフィルと一緒だなあ、なんて思わずニヤリ。

亡くなった大フィルの朝比奈隆マエストロ。
彼の指揮で何回か弾いた事があるけれど、マエストロの年齢が高くなってからは、指揮をすると腕が疲れてしまう。
それでテンポが保てなくなって、段々遅くなる。
でも彼はちゃんとテンポを作りたいのに、身体機能が弱ってきているのでままならない。
そこで叫ぶ。
「みんなあ、僕の指揮を見ないでよ~。見ないでどんどん弾いてよ~」
弾いてっておっしゃってもマエストロ、見えてしまうのです。
普通は指揮を見て欲しい。
でも彼は自分の腕が不本意に遅くなることを知っているから、この台詞になる。
だから極力自分たちで、さっさと弾くようにしていた。
そういう時には、コンサートマスターを頼りにする。

見ない方が良いマエストロだったのは、故山田一雄さん。
通称ヤマカズ、演奏者からこんなに愛された指揮者は、他にいない。
ダンディーでおっちょこちょいで。
指揮台にヒラリと飛び乗って、勢い余って反対側に落ちる。
落ちたところはチェロの真ん前。
ヤマカズさん、チェロのトップと悠然と握手をしたそうな。
時にはステージから落ちて、下から指揮をしながらよじ登ってきたというのは、有名な逸話となっている。
ヤマカズさんが指揮台に乗るとみんなニコニコしたけれど、指揮が始まるとうやむやで大変。
特にオペラ。
晩年、客席から「ヤマカズ引っ込め」のブーイングが飛んだ。

そういうこともあったけれど、それでも数々の名演奏を残して、今頃天国で胸のポケットからハンカチを出して振っているかも。
なぜハンカチかというと、これも有名な逸話。

現代曲の初演の時、途中で何かあったら胸のハンカチを出して振るから、それでコーダに飛んで終るという秘密の約束があった。
現代曲の初演に事故はつきもの。
誰も初めて聞く曲だから、わかりゃしない。
ところが指揮を始めてしばらくすると、ヤマカズさんは熱くなった。
汗を拭くつもりで、胸ポケットからハンカチを取り出した。
そうしたら、あっと言う間に演奏が終ってしまった。

ヤマカズさんの指揮は見ないで、感じていれば良かった。
指揮棒がどうあれ、素晴らしい音楽が流れていた。























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