友人のWちゃんが、なんとハーピストになる野望を抱いているという。
それを聞きつけて早速見物しに行くことにした。
訪問時間を打ち合わせようと電話をすると出ない。何回目かにやっとおそるおそるという感じで出てくれた。最近通話の詐欺と言うものに遭ってしまったのだ。私の携帯は番号登録済だけれど固定電話番号が登録されていなかったので、もしや詐欺師から?と思ったのだという。
きくところによれば知らない番号から着信記録があって、その番号にかけると何故か知人につながってしばらくぶりなので長話をしたという。ところがその電話は知人の番号ではない。おかしいと思っていたら弟さんから叱られたという。そんなに長話をしたら、後でとんでもなく高い電話代が請求されるぞと。海外のサーバーを通じて転送されてその友人につながったらしく、最初はその電話機が使われているかどうかのテストだったらしいと。
私は詳しくないからわからないけれど、どんどん知能的になっていく詐欺。素人では見抜けるはずもない。
やっと話がまとまって、コンバス奏者のHさんと待ち合わせてイタリアンのテイクアウトを持参して、どちらかといえばハープを聞くより食べるほうが目的だけれど。とりあえずお互い顔を見て安心したいという気持ちなのが、これがコロナ感染拡大のもとといえばそうなんだけれど、とにかく 久しぶりに会うことになった。
Wちゃんは私のオーケストラ時代の同じ釜の飯を食べた仲間で、どれほど一緒に行動したことか。演奏旅行も遊びもなにもかも常に家族ぐるみでのお付き合い。そして今もまだ付き合いが続いている。
3人の熟女は(魔女と言ったほうがいいかも)同年代で、常に面白いことを嗅ぎ分ける能力に恵まれているから、見た目も悠然として見える。それは太っていると言うことの言い替えかもしれない。そんなわけで今日は私が近所のイタリアンのお店で食料を調達、Hさんは新潟から届いたスイカ持参。引っ越したのは聞いていたけれど、訪問は初めて。
行ってみると素敵なマンションで最上階の12階、見晴らし抜群で地球の丸さが実感できる。こういうところに住んでいたら、コロナも寄り付かない。イタリア製の家具が置かれて趣味の良い彼女の部屋らしく本当に素敵。そしてハープは部屋の一番の主のようだった。彼女が言うには、このハープを買おうと思って値段を訊いたら、まず安いと思ったという。それはヴァイオリンに比べたらスタインウエイのグランドピアノでも安いと思うくらいだから、楽器に関してヴァイオリニストの感覚は麻痺している。だからといってヴァイオリン奏者が特に金持ちというわけではなく、楽器以外のことでは慎ましく暮らしている。テーブルにセットされたランチョンマットをほめたら、100円ショップで買ったのだそうで。
彼女はご主人を30代でなくしている。あまりにも早いお別れだった。ハンサムでおおらかでオーケストラの人気者だった。彼は車が好きで、高い車が欲しいと言うから彼女が「スズキの軽自動車にしたら」と言ったら「それじゃあWもスズキのヴァイオリンにしたら」と言われたと言う。それで私達は爆笑した。奥さんはかなりの猛女、彼は誰とも仲良くできるのだった。
(説明すると、スズキのヴァイオリンというのは、初心者用の機械製の安い楽器を制作しているメーカー品のことです。)
よくネットの掲示板などで読むけれど、どうしてこんな些細なことで離婚する?と思うことがある。彼のようにユーモアでさらりと躱せれば、争いは起きない。
テイクアウトの食事は美味しくて、お話も面白い。彼女たちは頭が良くて知識欲があり、話題は実に豊富でいくら話しても飽きない。話に夢中になって目的のハープを聞かないでは帰れない。まだ始めたばかりの彼女が弾いてくれたのは聖夜。これを聞く限りでは、ハーピストへの道はまだまだ。ハープは優雅な楽器と思いきや、とんでもなく重労働なのだ。調弦はハ長調でピアノの黒鍵にあたる半音高い低いとかの音は出せないから、足元のペダルで切り替えられるようになっている。だからハープの演奏を近くで見ていると、両手とペダルの切り替えで大忙し。
楽器の中でも弾(はじ)いて音を出すもの、例えばギター、チェンバロ、マンドリン、ハープなどは耳障りでない。それに比べてヴァイオリンのような弓でこする楽器は、下手な演奏は耐え難い。うーん、ハープ欲しくなったと、耐え難い音をいつも出している私は考えた。でもとんでもなくお金がかかる。弦1本一万円、ヴァイオリンも太い方はそのくらいするけれど、4本しか無いし細い方はそれほど高くはない。ハープの運送は自分でできないから会場に運ぶには専門業者に頼むと数万円。まずい!そんな楽器に取り憑かれたら私は路頭に迷う。野良のエサ代に事欠く。
面白いのは、私もそうだけど彼女も大富豪ではない。それなのに私達がこんな高い楽器を手に入れ高い月謝を払って演奏家になれたのは、周りの環境もあるけれど普段の生活は決して贅沢はしていない。着るもの食べるものはごく当たり前のものだし、むしろ質素と言える。ブランド物を持っている人は少ない・・・というより、興味なし。
そもそも彼女がハープを手に入れたのは、たまたま手頃な楽器に遭遇したことだった。以前はアイリッシュハープをやっていて飽き足らず、大きなハープをさがしていたところ偶然出物があったというわけで。
彼女はそういう引きの力が強い。ヴァイオリンの名器を買ったときもそうだった。たまたま楽器屋さんのコレクションが出たのと、今住んでいる素晴らしいマンションも、とある事情で手に入ったという。それと鉄瓶!
私が一番羨むのは彼女が南部鉄瓶を買ったこと。彼女が店じまいするデパートの食器売場を通りかかったところ、普段ならとても手が出せない鉄瓶が安く出ていたのだという。鉄瓶で沸かしたお茶をごちそうすると言うから、私も以前から鉄瓶が欲しくても高くて手が出せなかったのよと言うと、そういう事情を話してくれた。
コロナ感染が広がり始めた頃、私は近所の大型ショッピングモールに行った。食器売場ですごく気に入った食器のセットが売り出されていた。その時は店内はガラガラで、私は車で行かなかったので重い食器は持ち帰れない。明日はまだバーゲンをやっていると言うから、この客数の少なさならまさか売れないだろうと高をくくって店を出た。次の朝、開店と同時に飛び込んで食器売場に一目散!あ~ら、見事にそのセットは消えていた。
彼女にその話をしたら、なんで予約入れて置かなかったのといわれた。そうなの、私はいつも中途半端な行動で彼女のように欲しい物を確実に手に入れることができない。これが引きの強さ弱さの分かれ目なんだなと考えた。彼女は家も楽器も良いものを手に入れる力がある。私は良いものをいつも逃す。これが運命の分かれ目なんだとため息をついた。
鉄瓶で淹れたコーヒーは柔らかくて美味しかった。もっと驚いたのは白湯を出された時。ただのお湯なのに甘く感じた。興味のある方お試しあれ。
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