こんなに長いあいだ北軽井沢を おとずれているのに初めて知った場所がある。
軽井沢在住のY子さんと夕飯を食べる約束をしていた。彼女は色々用事を済ませてから6時にこちらに来ると言うので待っていた。4時半ころ電話があって、用事が全部済んだから行ってもいいですかと言うから、もとより暇すぎる私は快諾。彼女はご案内したいところがありますという。
私はいつもここに来るとノンちゃんと楽しい時間を過ごすことに殆どの時間を費やした、だからあちこち見て回ることもなく、私より年上のノンちゃんはあまり動き回ることもなく、この周りの環境はよく知らない。私より年下のY子さんは活動的。私が来られないときに知り合いのおばさまと愛犬と、この辺をクンクン嗅ぎ回ったらしい。しかも我が家の庭に侵入したらしい。庭の奥に清流が流れているのを見たおばさまが感激したとか、嬉しそうに報告してきた。
そのときに浅間牧場に行ってお弁当を食べたのがとても良かったらしく、今日も浅間牧場で食べたい様子だった。けれど日没後はこの辺は真っ暗。近所の食堂にテイクアウトを頼んで我が家で食べることにした。
日没前の浅間牧場に連れて行ってもらった。いつも見る浅間山は胸を張ってそびえ立っているように見えるけれど、高いところで見るとなだらかで黄昏の消えゆく光の中で優しげに見える。山には神様がいると思うのはこういう時。日頃は全く信仰心がないのに。
料理の予約をするために電話すると食堂のご主人が嬉しそうに「お久しぶりです」と明るい声で言う。コロナのおかげでこの食堂も一時期閉鎖、いつ行ってもお店が開いていないのでがっかりしていた。ああ、良かった。皆この食堂が開くのを待っていたのだ。
以前はご主人が一人で一生懸命働いていた。その後結婚すると言うから、皆心から祝福した。素敵な奥さんができて、お店は大賑わい。そしコロナが始まってすごく心細かったと思うけれど、いつも明るい奥さんがそばにいるので幸せだったのではないかと思う。ご主人は以前にもまして生き生きとして働いていた。お客さんもたくさん詰めかけていて、夜の予約はすでに満杯。
お料理を受け取ってうちに戻ると猫がいそいそと出迎えてくれたけれど、同行のY子さんとチワワの菫子ちゃんを見るとクルリと背を向けて押入れに閉じこもってしまった。こういう時よく考えるのは、社交的な性格は得だということ。せっかくのお客様、一緒に会話に参加すれば楽しいのに。
持ち帰ったのはチキンソテーとローストビーフカレーを半分ずつシェアして食べることにした。特別に野菜をたっぷり載せてくれたのでサラダいらず。ご飯はピカピカ。それに軽井沢の漬物屋さんの奥さん手作りのきゅうりの漬け物。デザートはアイスクリーム。カレーを食べると普段は胸焼けを起こすので恐る恐る食べ始めたけれど、美味しくていくらでも食べられる。しかも全く胸焼けしなかった。
満足、満腹で、軽井沢に帰るY子さんとチワワの菫子ちゃんを見送ると、一人ぼっちの長い夜を過ごすためにYou Tubeを見た。
パールマンが弾くベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。彼の音楽は力強くグイグイと人の胸に迫ってくる。彼の日本公演のチケットを手に入れて心待ちにしていたある年、彼は体調不良でコンサートは中止。チケットはしばらくデスクの引き出しにしまってあったけれど、ついに再演はなかった。随分がっかりしたものだった。
最近はコロナで国内の演奏会もなく海外の演奏家も来ないし、自分が弾く機会もすべてなくなってしまった。そんなときに北軽井沢の森の中にいられることがどれほど救いだったことか。朝日に照らされて輝く木々、鳥の声、夜中にガサゴソと動き回る動物の気配。私をこの家の後継者にしてくれたノンちゃんに感謝。ノンちゃんの望みに応えるためにはヴァイオリンをこの部屋で弾かなければいけない。昨日はシェリングとは雲泥の差のバッハを弾いてがっかりして足が攣って、あ~あ。
某一流オーケストラのコンマスのT氏が高級車に乗っていたので「いいわねえ、こんないい車に乗れて」と言ったら「そりゃあ、みなさんとは苦労が違うよ」と言われたことがあった。本当に苦労無しでヴァイオリンがうまくなるわけはないのよね。名演奏家は人の何倍も練習して緊張して、やはり私には無理。猫と安穏に過ごす日々を楽しんでいる。
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