2011年11月3日木曜日
手
手にいつ頃からかシミができて、目に入るたびに嫌な思いをしていた。顔は鏡さえ見なければ本人は見えないからいいけれど、手はすぐに目に入る。先日北里研究所に行って手のシミ取りをしてきた。レーザーをバシッ、バシッと照射して行く。あとが真っ黒になってシミよりずっと汚い黒い斑点になったけれど、2週間後には全部のかさぶたが取れて、シミは消滅した。久しぶりに見るシミのない手。うれしいけれど今度はしわが目立つ。この手で何十年もヴァイオリンを弾いてきたのかと思うと、しわがあろうと、関節が節くれだっていようと、いとおしい。何十匹もの猫の頭を撫でてきたことか。怪我もせずここまで来られたことに感謝する。今更ながら人間の手の素晴らしさに驚嘆する。こんなに精巧にできている手をもったからこそ人間はこれほどの文明を築きあげられたのだと思う。二本足歩行を始めたからそうなったのか、手が素晴らしく器用なので足から分離できたのか、その辺はわからないけれど、そのお蔭で私は素敵に楽しい人生を過ごしてきた。大事な大事な私の手。関節炎で指が曲がり、一時はヴァイオリンを弾くことをやめなければならないかと思うほどの痛みに悩まされ、音程が悪くなって周りにもずいぶん迷惑をかけたと思う。でも私の唯一の自慢は幅広で親指が内側を向いていること。見てくれは悪いけれど、この手がヴァイオリンを弾くことに向いていたから、ろくな才能もなく努力も中途半端でもやってこられた。あるとき右手のボウイングを習いに行った時、初めてお目にかかる先生が私の手を見ておっしゃった。「あなたの手はそのまま弓をもてるよね」本当に初めからなんの苦もなく弓が持て左手も苦労なし。だからといってろくな音楽的才能は持ち合わせていないから、大成はしなかったけれど、そこそこ仕事も出来て、時々はコンサートも聞いて頂けて幸せだった。あともう少し手が長ければ申し分なかったと思う。でも私は身長が低くて、これで手だけ長ければオランウータン。オランウータンでもいいな。森に棲んで木の天辺で昼寝も悪くはない。
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