2012年3月2日金曜日

ミステイク

昨日レッスンを受けにきたYさん、バリバリのキャリアウーマンでひっきりなしに韓国へ営業に行く。彼女はいつも元気いっぱいで艶々輝いているのが、昨日はちょっと様子が違った。なんとなく投げやりで集中力に欠けている。訊けば、仕事の失敗で翌日上司から叱られるのだと言う。大人のオアシスの澁谷の音楽教室「ルフォスタ」ではロビーでの飲酒可だから、毎週木曜日に来る人がレッスンが終わるとお酒を飲んでいる。最後の生徒のレッスンを終えて出て行くと、いつもならすぐに帰るYさんがそこに加わって気炎を上げていた。なんでもみんなで決めて売り込んだ価格が会社側に気に入られず、彼女が全責任をとって叱責されるのだそうだ。「みんなで決めたのに、なんで私一人が怒られるの」と愚痴をこぼしながら根が明るいので、すでにニコニコしているけれど、きっと内心はきついのだろうなと同情するも・・・・私たちの仕事なんて失敗の連続、失敗が失敗を産み、泥沼にはまって消滅したオーケストラプレーヤーを何人見たことか。一回の失敗から見る見る崩れていく人を見る(聴く)つらさ。本人はその場で死んでしまいたいと思うくらいだと思う。自殺する人もいるのはどの社会でもいるから何とも言えないけれど、数千人の観客と百人以上のオーケストラの仲間の前でボロボロになってしまったら、立ち直るのにどれくらいの時間がかかることか。私自身もかつてオーケストラでカナダ、アメリカ西海岸、南部、メキシコを演奏旅行した際、私が曲の冒頭を一人で弾く曲があって、手が震えて弾けなかったことがあった。しかもバンクーバーのテレビ放送のカメラが入っていて、私の手のアップから始まる。どうやっても震えて見事に失敗。最後も全員が弾くのをやめても私だけが残るという恐ろしさ。徐々に弾く人が減って行きたった一人音を長く伸ばして曲は終わる。その演奏旅行の間1か月半その曲に付きまとわれたけれど、どうにか立ち直った。アメリカの大きな自然やおおらかな雰囲気に助けられたのか。周りのメンバーは私が病気になってしまうのでは、あるいは死んでしまうのではと思ったそうだ。その後も何回も恐ろしい目にあっている。何回もというか、コンサートの度毎に。私たちは人前で恥をかくのが仕事。この先もずっと恥をかきながら完成という文字を見ずに死んでいく。最近は歳のせいにするという狡い手を使うことにしている。でも私より20歳も年長の方が素晴らしいリサイタルをしているのを見ると、この言い訳が通用するにはまだ早い。

0 件のコメント:

コメントを投稿