2013年1月29日火曜日

樫本大進ヴァイオリンリサイタル

サントリーホール
ベートーヴェンのソナタ3,4,9番

彼の音楽はスケールが大きい。それでいて、どの部分を取っても神経が張り巡らされている。弾き飛ばしたり、これ見よがしに名人芸を披露したり、情熱を剥き出しにしたりすることがない。それらは彼にとってはほんの枝葉のことらしい。それを超越した、すべてを含んで有り余るほどの容れ物を持っているらしい。初めてまだ10代だった彼の演奏を聴いたとき、なんというおおらかで落ち着いた音楽なのかと驚いた。たぶん胆力がよほど座っているのだろう。並外れた才能と努力、周りの環境が作り上げた傑作が彼なのだと思う。9番の「クロイツエル」が始まる前に会場で拍手がわいた。会場の一部でなにか動きがあるのでそちらを見たら、皇后美智子様がご来場になった。遠目にも気品の感じられる振る舞いを見ていると、今夜の演奏者も美智子様も並々ならぬ人であるが故に、我々凡人には考えられないような深い苦悩や困難を乗り越えて、常に人の前で自分を律して生きる、その苦労は計り知れないほどのものと思う。そしてベートーヴェンも又そうであったように、凡人の枠を超えられた一握りの人々は、凡人を幸せにしてくれる。

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