この季節湿度が高くて弦楽器奏者にとっては悩みが多い。しかし最近はコンサート会場も空調が完備されているから会場に入ってしばらくすると、外の湿度はあまり影響がなくなるので助かる。かつて日本にあまり良い会場が無いころには、学校の体育館や公民館などの空調の設備のロクに無いところで弾くことも度々だった。そんな時代ではこの季節は最悪で、場合によってはトタン屋根に落ちる雨の音が伴奏してくれることもあって、風情があるっちゃああるが、手も楽器もベトベトで調弦を何回しても音が狂って最悪だった。
今朝弓の毛を交換しにHさんのところへ出かけた。「弓の」Hさんと言って先代から弓の専門店として有名だった。1度私が教えている教室に近い楽器やさんが弓の毛替えを安くやるというのでお願いしたことがあった。それはHさんの処の3分の1の値段で、半引退した貧乏音楽家にはありがたい話しだった。しかし、出来上がりはどうしても納得がいかない。弓の途中で突然バランスが崩れる。もう一度張り替えてもらった。今度は技術者も必死でやったそうだけどやはりだめで、いつものHさんにもう一度張り替えてもらうしかなかった。結局安物買いの銭失いになった。それからは絶対にHさんのところにしか行かないので、先代から何十年もお世話になっている。最近息子さんがあとを継いで腕のいい職人になって、安心して任せている。今日は土砂降りで、こんな湿度の高い日はかれらも大変らしい。受け取りにいくと珍しく気弱そうに、「今は湿度が高くて張り替えに苦労します。高い湿度に合わせて張ると、エアコンを効かせたときに又張りがかわってしまうので、大変難しいです」と言う。なるほど、彼らにとっても日本の梅雨時は苦労が多いのだなと思った。前にも書いたけれど、教室に近い楽器やさんはこのHさんを尊敬していて、私がクレームをつけてHさんに張り替えてもらったときに、ぜひ見せてほしいと言ってきた。眺めながらほとほと感心して、なにがすごいかというと弓の元の方の毛がかすかに内側に巻き込んであるのだそうで「これは本当に世界でも数人しか出来ない技術なんです」と言って写真を撮っていった。
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