佐々木 基本的にはピアノを調律された後、演奏も聴かれるん ですよね。
山田 もちろんそうです。
佐々木 全部聴いてその日は終わりということでしょうか。
山田 そうです。途中でね、ピアノコンチェルトとかだと弦がきれちゃう場合がありますから。そういうときにいないと大変なことになります。だから独唱とか歌の伴奏とかそういうのだとまあ、だいたい休憩くらいまでいると、マネージャーが、どうもこんなもんで大丈夫ですからごくろうさま、っていうんで私もかえっちゃう。
ケチったマネージャーだと、調律終れば、もう大丈夫だからいいよっていう人もいます。じゃなかったら、必ずお終いまでいてください、アンコール終わりまでいてくれ、ってなります。
ずいぶんだからそういうことで失敗しましたよ。
途中で切れちゃうとかね、なにしたとかね、ありますから。
うるさい人はうるさい人で、とにかくリハーサルの間も必ずついててくれとかね。
佐々木 やっぱり1人1人違いますね。
山田 違います。うん、おもしろかった。人生おもしろかった。あと何年やるかわからないけど、もう少し遊ぶって言うとへんだけど。
だからいっぱい抽出しをもってないと。
こういうクレームがきたときにはこのひきだしかな、っとやるわけですから。
佐々木 調律師として戦後の日本の音楽界見ていて変わった点はどこでしょうか。
山田 まず、世界のピアニストの好みっていうのが変わってしまったんですね、徐々にではありますけれども。というのはメーカーそのものが有名なピアニストの要求に合せようとするわけですよ。
それから時代も変わりました。テンポも変わったんですね。
今はテンポが速くなったんです。
それと音がね、非常に華やかな音が好まれるようになった。
ところが修行時代っていうのは、しっとりとした、味わいのある深みのある音というのがよかった。
ところが段々、鍵盤に重りを載せて測るわけなんですが、何グラムって。それが60グラムくらいだったものが、今は55グラムですからね。すんごい軽いんです。
その演奏者のビデオなんかをご覧になると、みんなこうやって(指を立てないで)弾きますよ。
お母さんはピアノ弾かれる?
佐々木 弾きます。
山田 おかあさんが習った頃はたぶんここ〈手のひた)に卵が入るようにって。
佐々木 言ってました。
山田 でしょう。ね。ところがいまご覧になりますと、手が寝てますよみんな。
ここ(指先)だけで変化があるように軽ーい感じになっちゃった。
だからピアノの音そのものも少しキンキンにね。固い音になっちゃた。
それがここ、要するに50年の間に変わってきたところ。で、またスタインウエイが全部リードしますから。世界を。
有名なピアニストっていうのはみんなスタインウエイを弾きますから。
佐々木 なるほど。
山田 だからそれに全部合せてやらなくちゃいけない。
佐々木 調律以前にピアノがそういう風になっているということでしょうか。
山田 それはもうだいたいそういう傾向になってきたなっていうのは感じますから。そうするとメーカーのほうもそれに合せて、ああ、やってるなっていう風に。
佐々木 そうなんですね。
山田 まあ、面白い世界ですよ。でも失敗の連続ですよ、ほんとに。ははは、ほんとに。
もうその講演を頼まれるんですよ。これなんかもそうだけど。
そうするとね、成功した話っていうのはあるんですよ。
このルプーっていうピアニストの場合はね。
属啓成(さっかけいせい)さんっていう評論家がFMで話しているのを偶然聞いたんですけどね。
今度イギリスからおもしろいピアニストが来ると。
まあ、録音聴いてもらえばわかるけれども、そこでターナーの絵のようなね、墨絵のような感じだって言ったんですよ。
佐々木 墨絵ですか?
山田 墨絵。「おもしろいのが来日する、もうじき来るから聴いてみてください」っていう解説を偶然聞いたんです。
聴いたらね「ああー、なるほど」
右のペダルと左のペダル。真ん中はまた別ですよ。
右のペダルは音を解放する。左のペダルは音が少し柔らかくなる。左のペダルを非常に多様する風に聞こえるんです。
要するに墨絵というのはもやーっと、ぼやけた感じですよね。
これは左のペダルに集中して極端に調整をしようとしたわけですね。
やったらもうえんらい喜ばれましてね。
試験の山があたったようなものですから、それが好みにぴたっとあったわけですね。
初来日だから知らないですよね。演奏を聴いただけでね。
こうやった方がいいかなと思ったけどだめだったり。
成功したことっていうのはあんまり話すと自慢になっちゃう、いやだから。
失敗したことばっかり話す。講演してくれって言われて、そうするとうけるんです。はははは。
0 件のコメント:
コメントを投稿