2013年4月2日火曜日

ベートーヴェン「ソナタ10番」

ヴァイオリンとピアノのための「ソナタ」の最後の曲。作品番号を見ると「クロイツエル」よりもだいぶ後に書かれたものらしい。後期の作風の清明な特徴がよく現れている。ピアニストのSさんはベートーヴェンが好きで、連続で合わせてもらっている。この私は猫族だから、どちらかと言うとベートーヴェンは苦手で、リクエストの来る有名な曲以外は避けていた。Sさんが合わせようと言うから仕方なく続けて練習してきた。お陰でなんとなく苦手意識が薄くなってきている。やっとたどり着いたこの10番。こんな良い曲とは思わなかった。今まで聴いたことがなかったわけではない。何回か演奏会で聞いていたけれど、やはり有名なスプリング、クロイツエルなどと比べると地味でおもしろみに欠けると思っていた。ところが何回か弾き進んでいくうちに、その良さが胸にしみこんできた。これは素晴らしい。だいたいどうしてベートーヴェンが苦手かというと、私には、ああいった精神の深みに降りた人だけが持つ苦悩もない。想像力だけは有り余るほどあるが。心の深部には誰でもぽっかりと空いた暗闇があると思う。それが自覚されるかどうかは別として。その暗闇でもがきにもがいて、そこから脱出出来た人のみが到達できる高みにまで登らなければ、ベートーヴェンの後期の作品に見られる浄化された世界に到達出来ないのではないか。そんな風に思えるこの10番は技巧に走らず気の赴くままに書いたように思えるのに、一種独特の世界が広がっている。何というか、不思議な明るさ、静けさに満ちたとでも言うのかしら。解脱?そんな言葉も連想させられる。それを煩悩にまみれた私が、さあ、どう表現できるか。弾いていてこんなに平和な気分になる曲も珍しい。初めに楽譜を見たときには、こんな面白くも無さそうなと思ったのに、今は弾くたびに嬉しくなる。

0 件のコメント:

コメントを投稿