2012年5月3日木曜日
先輩
音大の先輩がワルシャワフィルのメンバーとコンサートをすると言う。彼らが来日するのが遅く練習が少ないので一緒に練習してほしいとの依頼が舞い込んだ。それならと言うので今日初めてお目にかかって練習が始まった。土砂降りの雨が降っていて世田谷の御宅まで行く道の途中、多摩堤から見ると多摩川の水量は異常に上がっている。最近の亜熱帯様の雨は都内でもスコールのように降る。川岸の青いテントに暮らす人たちにはつらい季節になる。出水の心配、夏には暑さや虫などに悩まされ、冬は寒さに震える。働く努力が足りないなどと一言で済まされる問題ではない。格差があるのは社会としては仕方のないことかもしれないけれど、今の日本政治家が無力すぎる。その政治家を選ぶ私たちが無関心すぎると言える。訪ねたお宅はグランドピアノが3台、絵画や美しい家具が所狭しと置かれ、本棚には立派な装丁の分厚い本がびっしりと並んでいて、青テントの家との天と地ほどの差を見せつけられた。先輩のSさんは頻繁にコンサートで演奏されているので、本当に素晴らしい音楽家であることは弾き始めてすぐに納得した。全部のフレーズがきちんと把握されていて、ただやみくもに指が回るとか音が大きいとか言うのではなく、すべてわかったうえで演奏できる人に出会えたことに感嘆の念を禁じえなかった。今日はベートーヴェン「スプリングソナタ」一曲だけお手合わせ。これからブラームス「トリオ」シューベルト「ます」モーツァルト「トリオ」など7月の本番に向けて徐々に練習を重ねることになる。昨日同じコンサートに参加する若い人とブラームス「ソナタ」を合わせた時、私は偉そうにこんこんと室内楽の心得などを教えたが、今日は先輩から演奏を通じて大きなことを教わったみたい。歳を重ねるのは本当にすごいことなのだ。私は技術的に水準の高い若い人たちと一緒に弾くことを好んでいたけれど、もったいないことをしていたものだと思う。これからの2か月間私の職業は泥棒・・・ただし音楽だけ盗むことに専念する。
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