ピアニストの友人が、ブラームスの3番のソナタ弾こうよと言ってきたから、少しずつグズグズと練習し始めたら、えらいことを発見した。
私この曲まだ人前で弾いてなかった。
ブラームスのソナタは特に2番が好きで、どれを弾く?と訊かれると、躊躇いなく2番と答えていた。
3番は当然弾いてあるものとして片づけていたら、なんだか珍しく譜読みに手間取る。
いや、まさか、あまりにも良く知っているこの曲を弾いたことがないなんて、あり得ない。
暫くしてギョッとしたことに、遊びで初見で弾いたことはあっても、ちゃんと演奏したことがない事に気がついた。
ブラームスのソナタのうちでも3番は一番重厚で、特に2楽章が難しい。
殆どG線(ヴァイオリンの一番低い弦)で弾く。
G線の上のほうのポジションで豊かな音を出し、滔々と大きなスケールで弾くのは、私の様な非力な者は息切れがする。
テンポがゆっくりした楽章をたっぷりと歌い上げるのは、優れた音楽性、そしてなによりもボウイングの技術が必要になる。
弓が弦に吸い付くようにゆっくりと動かすのは、早く弾くよりずっと難しい。
何故そんな無理なことをするかと言えば、音色のため。
太い弦(低弦)は音を出すのにエネルギーがいるけれど、その代わりとても音色に幅が出る。
例えば切ないような、力に充ちた、情感に溢れた、みたいな表現で分かっていただけるだろうか。
チゴイネルワイゼンやチャルダッシュなどの冒頭の部分の、あの力強く、しかも蕩けるような音色は、隣の弦に行って低いポジションで弾いては出せない。
ブラームスの3番のソナタ2楽章も、音色が命。
それが簡単に出せるようなら苦労はない。
ところで初めて人前で弾くとなると、楽器の状態の悪いこの季節、中々大変なことに気が付いた。
ずいぶん前の話。
車の運転中ラジオを聞いていたら、あの超テクニシャンのヴァイオリニストのクレメルが、40才過ぎて初めてザルツブルグ音楽祭で弾いたという、ブラームスの演奏が流れ始めた。
彼はそれまでブラームスを、この音楽祭で弾くのは敬遠していた、という前説があって。
聞き進んでいくと、なんだか可笑しくなってきた。
いつもの目の醒めるような演奏とは違って、なんだかオドオドしたような・・・個性のないごく普通の演奏。
そして最近オイストラフの演奏をyoutubeで見つけた。
オイストラフのまあ、見事なこと!
堂々として繊細で、音程に寸分の狂いもなく、素晴らしい音色。
20世紀最大のヴァイオリニストの前では、かのクレメルもタジタジ。
やはり人には向き不向きがある。
クレメルのテクニックにかなう人は滅多にいないと思うけれど、その人でもオイストラフの音楽にはひれ伏す。
私はこの演奏を聴いて、なおさら練習意欲が萎えた。
こんな素晴らしい音楽を、ヘナチョコヴァイオリニストが弾けるわけがない。
味噌汁で顔洗って出直してこい、豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ、と言われそうで。
どうも落語で育ったお里が知れちまうってなもんで。
やれやれ、それでは気を取り直して練習始めます。
オイストラフのブラームス、ヴァイオリン協奏曲 第3楽章をYouTubeで聞いてみました。
返信削除うわー、凄く繊細で難しそう。(素人目にも)
nekotamaさん、頑張って!
ブラームスは私には見上げるばかりの巨人に等しい作曲家です。
返信削除重厚、粘着、苦悩、優柔不断、壮大、純粋等々。
自分に無いものばかり。
歳をとってからやっと好きになりました。