ベニスはいままで行ったどの都市よりも、不思議な魅力をたたえていた。まるで、夢の中にいるような、しかも、ほんの少し悪夢が混じっているような、気持ち。マーラーの5番のアダージオ、(ベニスに死す)の主人公の、醜く化粧の溶け出すシーンが浮かんでくる。横になると、かすかに揺れている。カーニバルで被るお面、きらびやかなのに、少し不気味、そんなイメージ。モーターボートでガラス細工の島、ムラノ島へ渡る。恐がり屋のじゅんこさん、この時も 「私たち、さらわれるんじゃない?」と、えらくご心配。しかし、私たちをさらって役にたつかどうか、その辺はすこぶる疑問だから、「大丈夫よ」と答える。ベネチアングラスの工房につれて行かれ、おそろしく熱心に売り込まれる。しかし、壊れやすく高価な品物を、貧乏音楽家が買えるわけがなく、すっかり気落ちした工房の主は帰りは勝手に帰れ、だと。面白かったのは、八百屋さん。トマトでもきゅうりでも、一緒に紙袋に入れて計って値段がきまる。何でも同じ値段で、必要なだけの量が買える。これは良い。夜、ホテルの窓の下で騒いでいる人たちに、「アンターラ ウルサイーナ」と、日本なまりの偽イタリア語で叫ぶ。
駐車場のおじさんは全く英語が出来ず、イタリア語を第2外国語で勉強した猫魔さんも、全くイタリア語が出来ないから、「(駐車料金は)ナンボヤーネ。」と大阪弁イタリア語で聞いたら、困った風に笑っていた。なんだ、外人だってわけも無く笑うじゃないか。
0 件のコメント:
コメントを投稿